次の夏までおやすみ

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 祖母に、ちょっと閉まっていたものを出したいと告げ、蔵の鍵を借りる。  別に貴重なものが入っているわけでは無いが、木製の扉は重厚で、開くだけで一苦労である。  笠の手助けも借りながら扉を開けると、蔵の中の湿気を帯びた空気が一気に外に向かって流れ、湿ったような独特なにおいが二人の鼻腔をついた。 「えーと、蔵に用があるっていうのはどういうことですか?」 「あなたは、夏の終わりにだけ聞こえる音の正体って、どんなものだと思いますか?」  美香の疑問に笠は答えず、逆に質問を投げかけてくる。 「……わかりません。いろんな病院で診てもらったんですけど、原因は分からなくて。でも決まってこの時期にだけ聞こえるので、季節性のものかなとは思っているんですけど」 「どんな音がきこえますか?」 「どんなって……リンリン、リンリン。甲高いような音が」 「どこかで聞いたことのある音だと思いません?」 「どこかで?」  笠の問いに、美香は思考を巡らせる。  いつも、脳内でけたたましく響くその音から、無理やり意識を逸らすようにしていた。 音がどんなものかなど、深く考えたことがなかった。  リンリンと、一定の間隔を刻むその音は、確かに脳内に響く以外にも聞き覚えがあった。  空を裂くように響くその音は、でも良く言うならば澄み渡るように、どこか涼しげな気配があった。  そう、夏だけによく聞く音。 「……風鈴の、音?」 「ご名答です」  そういって、笠は蔵の中に足を踏み入れながら続ける。 「風鈴って持っていますか?」  持っていないと一瞬思ったが、ふと記憶が思い返された。  そうだ、幼いころ。小学校に上がるか上がらないかの頃に、私は誕生日プレゼントに祖父母から風鈴を貰った。小さいころは、毎年夏になるとその凛とした音を楽しみに、窓際にそれを自室の窓に括り付けていた。 そういえば、いつからかその風鈴の存在を忘れてしまっていた。 「おそらく、あの棚のあたりに閉まっているのでは?」  どうして彼にそんなことが分かるのだろうと、そんな疑問を頭の片隅には思い浮かべつつ、私は笠に促されるままにその棚に近づき、薄中からく埃のつまった一つの金属の箱を手に取った。  祖父がよく食べている煎餅の箱。  そうだ、この箱に私は風鈴を閉まっていた。
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