真夏の鯉のぼり

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 これは私がまだ小学生の頃の話しだ。    夏休みになると私は毎年、母方の祖母の実家に家族全員で帰省していた。    当時は、コロナなんて厄介なものは当然なかったので   「明日から帰省するね!」 「ああっおいで。待ってるよ。いつまでも泊まっていってね」  拍子抜けするほどに簡単なアポイントで帰省することが出来た。  良い時代というか早くそんな時代に戻って欲しい。  実家に戻ると祖母は、いつも私たちが寝泊まりする広い和室に案内してくれる。  日はたくさん当たるけど広い縁側があり、窓を全開にすると心地よい風が入ったきてとても涼しく、エアコン入らずだ。  祖母は、畑で今朝、収穫したばかりのスイカを井戸の水で凍えるほどに冷やしてもてなしてくれた。  私も妹も喜んで齧り付く。  スーパーに売っているものとは比べ物にならないくらい甘い。  私たちは夢中で何切も食べる。  美味しすぎて種を飲み込んだことにも気づかない。 「種捨てんと(へそ)から芽が出るよ」  祖母は、"祭"と書かれた古い団扇で仰ぎながら穏やかに笑う。
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