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父は、都会では味わえない畳の匂いを堪能しながら蝉の鳴き声を聴き、母は、懐かしそうに目を細めて和室を見回し、麦茶を飲んだ。
穏やかな日本の夏がそこにあった。
しかし、その夏を彩る景色の中に明らかに異質なモノがあった。
私は、スイカを頬張りながら縁側を、縁側の向こう側にある綺麗に整えられた庭の中心に立つものを見る。
それは木を丸ごと一本加工して作られた太く、大きな丸太棒、その上には黒、赤、青、緑、橙の大きな鯉のぼりが悠然と風の中を泳いでいた。
先端に着いた風車がカラカラカラカラと笑い声みたいな音を立てて回っている。
私の視線の先に気づいて母が眉を顰めて祖母を見る。
「お母さん、今年も立てたのね」
母は、呆れたように言う。
「ああっよう泳いどるだろう」
祖母は、穏やかに笑いながら団扇で扇ぐ。
真夏の鯉のぼり
それはもはや祖母の毎年の恒例行事であり、この村の名物となっていた。
この恒例行事は母が生まれた時には既に行われていたと言う。
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