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祖父に抱きしめられた祖母の姿が変化していく。
夜空と同じ色の長い黒髪、白い肌、大きな瞳、熟れた林檎のような赤い唇・・・。
祖父と変わらない若い乙女へと姿を変えた。
2人は、抱きしめ合いながら何かを語らいあっていた。
言葉は聞こえない。
でも、それで良いのだと思った。
それは孫の私でも決して聞いてはいけない2人の逢瀬の言葉なのだから。
そうだと分かってきても私は2人から目を離すことが出来なかった。
あまりの美しさに涙が頬を伝った。
一瞬、祖父と目があった気がした。
祖父がこちらを向いて微笑んだからだ。
私は、何も答えることが出来ずじっと見ていた。
祖父は、直ぐに目を祖母に戻して再び抱きしめ、語らい合う。
気がついたら夜が明けていた。
祖父の姿は無くなっていた。
祖母も元の姿に戻っていた。
祖母は、空を見上げる。
明けた空に泳ぐ鯉のぼりを見る。
「また来年」
その声だけが確かに耳に届いた。
私は、見つからないよう急いで布団の中に隠れた。
それから40年の年月が流れた。
昨年、祖母が亡くなった。
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