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 嗅覚判定士の資格認定試験は、筆記と実技の二段階に分けて行われる。  まず筆記試験では、関連する法令や化学物質の特徴について問われる。こちらは高校を卒業する程度の学力があれば、誰でも――つまり種族関係なく合格を狙える。  もう一方の実技試験には、種族的な資質が要求された。  さきほど同居人がやっていたように、匂いを染み込ませた二五個のキューブのなかから、受験者は五個を選んで取る。サンプルとなる物質と選んだものの匂いを嗅ぎ比べ、一致するか否かを調べるものだ。合格基準となる七問以上を正答させるのは、獣人の鋭い嗅覚をもってしても困難だ。  願書の提出だけならば種族を問わず可能だ。けれども、実技試験が難易度を格段に引き上げ、かつ資格を持つ者のほとんどを獣人が占める状況を作り出していた。  種族差別を促す悪しき制度だと訴える人々は一定数いるようで、廃止を求める声はたびたび上がる。けれども、現在の生活や産業のあらゆる場面で、判定士は欠かせないこともまた事実だ。  人類――マンカインド(mankind)あるいはサピエンス(sapiens)およびその社会は、人間や獣人など複雑な社会を構成可能ないくつかの生物種によって形作られている。外見や身体能力に違いのある種族が入り混じって暮らせば、不平等から来る不満や格差、その他の問題が生じることは避けられない。けれども、違う者同士が互いに助け合う良さもまた、確かにあるのだ。  さて、柴本たちに話を戻そう。  受験者が五個のキューブを選んでトレイの上に置いたのを見計らい、監督官は密閉式の容器からサンプルを取り出した。  穴の開いた透明なプラスチックケースの中には、深い切れ込みの入った植物の葉と茎が入っていた。大麻である。日本では所持しているだけで罪に問われる。 「あなたが選んだ五つのキューブは、大麻の所持が疑われる人物を模したものです。所持している人物を特定しなくてはなりません。始めてください」  試験管の声を合図に、柴本はサンプルの入ったプラスチックケースを手に取った。横に開けられた通気穴に鼻をくっつけて息を吸い込む。青臭さと甘さが入り混じった匂いが鼻腔(びくう)を満たした。
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