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 きっかり三〇分後に、ボルゾイの監督官は戻ってきた。 「おめでとうございます。実技は全問正解です。筆記は合格ギリギリの点数でしたが。でも、過去二回に比べれば頑張りましたね」 「お、減点は?」それに一〇問目は間違えた筈。目をしばたたかせる柴本に、監督官は 「あれは冗談です。不問にすると言ったじゃないですか。あと、一〇問目は出題者が仕掛けたイタズラでした。意図的に違う商品の匂いを混ぜてみたとのこと。協議の結果、合格とみなすと判定が出ました」 「へー」    丸っこい目を見開く柴本の前に、淡い毛並みのボルゾイは嗅覚判定士の認定証を置いた。 「それから、出題者から言伝(ことづて)と、渡したいものがあるとのことで預かっています」 「ん、何っすか?」  不思議そうに首をかしげる柴本に、痩せたボルゾイの男は思い出したように 「やっぱり宣誓(せんせい)の言葉の後にしましょうか」  促され、柴本は立ち上がった。  彼らふたり以外には誰もいない講堂に、宣誓の言葉が朗々と響き渡った。 『(ひと)つ。われわれ嗅覚判定士(きゅうかくはんていし)は、鋭敏(えいびん)なる嗅覚(きゅうかく)(もっ)て、虚偽(きょぎ)や不正を暴き、人類社会の秩序ならびに多種族共存の理念を守るべく尽力することを誓います――』  ********** 「で、これがその合格証ってワケよ」  得意げな表情で資格証を掲げる柴本。A四サイズの厚紙には資格保持者であることを示す文言が書かれていた。 「これでとーちゃんとかーちゃんに自慢出来るぜ。写真撮ってー♪」  端末を渡され、満面の笑顔にVサインの同居人を何枚か写す。仕草も表情も男子小学生みたいだ。顔のつくりが幼く見えるせいで尚更そう見える。……あ、資格証にお醤油のシミが飛んでる。 「え? どこに!? うわ! マジかよ!!」  わりと目立つ位置に醤油のシミを見つけ、どんぐり目を思いっきり見開いて口を大きくあんぐり。 「とーちゃんとかーちゃんに何言われるか……。上手いこと編集できねーかなぁ」  そのまま送っちゃいなよ。いつも通りって感じでむしろ安心するんじゃないかな? 「えぇー!? ひっでぇー」  これ以上汚れないように、明日には額縁を用意しなきゃね。  そんな話をしながら、楽しい時間が過ぎていった。
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