ひとさらいのくれたもの

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学校から帰宅途中の彼女と接触出来たのは2月になってからだった。 左門は5枚のノート紙をファイルした物を彼女に見せると 「絵の勉強をしてる?」 と聞いてみた。特に警戒する様子もなく、首を横に振った彼女に 「自学でこのクオリティ?」 と聞き直す。 「絵の勉強なんて…言えない」 「失礼ながら、キミのおうちが習い事をさせられないほど困窮しているとは思えない」 「勉強しかさせてもらえない。もうこれ以上…勉強すると頭が痛くて仕方がないんだけど…自分が家出する代わりに私の絵を旅立たせていたの、5回も…?見つかっちゃった」 泣きそうな声でそう言った少女は全速力で勉強しかさせてもらえない家へと走って行く。その後ろ姿が見えなくなるまで見送った左門は少女の家、松岡を調べた。 そこで発覚したのは、少女の名前はオリエ。特別養子縁組の親子関係と、この辺りで一番の進学校への進学が決まったこと。それも首席入学で新入生代表挨拶を依頼されているらしい。 一度言葉を交わした彼女の苦悩が浮かび上がるような調査結果に数日間、考え込んだ左門は再び彼女に接触した。 「体調は?」 「最悪」 「親には?」 「薬をいっぱい飲まされて、普通に連れ回されるか勉強…もうぜーんぶ無理なの」 「うちに来る?勉強しないで、描きたい時に絵を描けばいい」 「簡単に行けると思えない」 「薬を渡すだけでも保護者だもんな。キミが家出だけすればあとは何とでもなる。そんな家に埋もれるのは残念な人材だよ、キミは」
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