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「あなたぁーっ、ちょっと…早く、早く…これ見てっ」
妻、サリの声が広いリビングのシャンデリアを揺らすのを隣の部屋で聞いた松岡五郎は
「大きな声でこれとは何だ?」
どうせくだらないゴシップか下世話なニュースだろうと思いながらも、毛足の長いカーペットを高級レザースリッパでかき分けて進む。
「これよっ」
リモコンを振り回して言われなくても、65V型テレビは視界に入る。
「絵画展か」
「そうだけど、そうじゃなくって…ああ、さっき映ったのに…」
「何?知り合いでもいたか?」
「オリエがいたのっ」
「はっ?」
妻の言葉には半信半疑で…でも大きな画面に映るギャラリーを真剣に見る五郎は、画面に呟いていた。
「どこのギャラリーだ?一人で鑑賞するくらいなら…うちに帰って来なさい、オリエ…」
「違う、違うのよっ。オリエの個展だって」
「…個展?オリエがこれを描いたと…そう言うのか?まさか、フン」
鼻を鳴らした五郎に
「本当にオリエだったわ、絶対よっ」
とサリはリモコンを投げそうな勢いだ。
「だが、福西里栄個展と書かれてるじゃないか。他人の空似だよ」
「我が子を見間違えるはずないでしょ?」
画面の隅に白く浮かぶ“福西里栄個展”の文字を並んで見る松岡夫妻は、次の瞬間
「「見つけた…オリエ」」
と声を揃えた。
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