ひとさらいのくれたもの

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「じゃあ、警察へ…」 「その判断を井川先生に委ねる意図もあるから、コンタクトは先生を通す」 はぁ…大きなため息を落とした妻は 「せっかく見つけたのに…オリエを見つけるのはいつだって私なのに…」 と吐き出す。それはそうだ。 子どもがいない松岡夫妻が8歳のオリエに特別養子縁組を申し出たのは、マッチングを提案された子どもをそっと見に行った施設でじっと絵本を手にしたまま動かないオリエをサリが見つけたからだった。 8歳にしては幼い絵本を見ていたオリエ。彼女を気に入った松岡夫妻は娘として引き取ることを申し出て、特別養子縁組が結ばれた。 「オリエの洋服を買いに行こうかしら」 とても綺麗な発色のアーガイルカーディガンを着ていた大画面内の17歳のオリエを思い出しながら、平岡が帰るために立ち上がったタイミングでサリが呟いた。 「奥さまが見つけられたテレビ番組、私も後で調べて見ました。オリエさんの着ておられたカーディガン、英国ハイブランドの若年層ブランドの最新のものでしたね。よくお似合いでした」 「似合っていたな。衣服にしろ、学校にしろ、生活に困る様子がないのは幸いということだ」 「あなた、のんびりし過ぎだわ。学校が通信だっていうじゃない。そんなので大学へ行けるの?1年後には大学生なのよ、オリエは」 そんなことは分かっている。だけど、妻の方がのんびりし過ぎなのではないか?自らうちを出て行った娘を取り戻したとして、そんな決まりきったレールの上に戻ってくれるのだろうか。
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