ひとさらいのくれたもの

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「里栄、食事だよ」 里栄の部屋はここと、ベッドルームの2部屋だが、ベッドルームは文字通り寝るための部屋で、彼女はほとんどの時間をここで過ごす。 14畳ほどの部屋に高さの異なるデスクが2台と、チェアが3脚。卓上イーゼルとスタンドタイプのイーゼルもいくつかあり、いま里栄が座るソファーと小さなローテーブルまである部屋は落ち着きなくも見える。 だが、この部屋の美しい主はゆったりとソファーに腰掛け、ローテーブルをぐんと遠くに置いてイヤホンで何やら音楽を聞いている。 そして視線はローテーブルの代わりに置いたスタンドイーゼル上に開いた絵本にある。2冊開かれた絵本のページから、彼女がイングランドの森と北欧の森を行ったり来たりしているのだと理解した福西左門は、ゆっくりとスタンドイーゼルの間に立った。彼女の絵はこの時間が生み出すのだ。 「あ…左門さんだ…呼んだ?」 「一度だけ」 毎日のように同じやり取りをすることに、何となく二人はクスリと笑い合い 「今夜の食事は勢揃いだよ、里栄」 と左門が手を伸ばすと 「予想通りだったんだね…おじいちゃん、右太衛門さん、左門さん…みんな大正解か」 そう言ってから、里栄は左門の手を取り、グイッと体重を掛けるようにして立ち上がった。
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