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お銀
「……美味しい…」
どこか優しい、母の味を彷彿とさせるような味わい。
鳥の釜飯も美味しい。味噌汁も野菜がたっぷり入っている。うさぎ肉は少ないのでつみれにしてシソなどの風味ある薬味を練り込んで茹でてある。
ご飯が進む。
仁
「こいつの親が化けて小料理屋をやっていたらしくてな。それで料理を覚えたそうだ」
なんとも器用な狸だと思わず尊敬の眼差しを送った。
ぽむっと二足歩行のたぬき姿に戻って、照れ臭そうにもじついている。
愛らしい。
あっという間に完食して転がり、満腹だと幸せが詰まったお腹を撫でる。
仁
「いい贈りものだったろう?」
にっこにこしてちゃっかり隣に転がって見つめる仁。
それを無言で見やる。
お銀
「そうですね。貴方はそろそろお帰り願いましょう」
コロ。と声をかけるとよし来た。と襟首を加えて玄関へ。
仁
「待ってえーーーーーーーー!!!!!」
器用に前足で引き戸を開き、ぽいっと放り出すと閉めた。
仁
「くぅっつれない!!!明日も来るぞ!!!」
諦めないからなー!!!と吠えて蛇の目傘を差し、雨の中を進んで町へと降りていった。
めげないやっちゃ。と引き戸をまた開いて顔をのぞかせるコロ。
見えなくなるのを確認すると閉じて客間へ戻っていった。
たぬきがぴすぴすと鼻を鳴らしている。
コロ
『この子は純粋に慕ってるようだナ』
お銀
「そうですね。あなたたちも彼の後を追いたければどうぞ。そうでなきゃここでごゆっくり。雨の中ですからね」
その優しさを彼にも向けてもらえないものかと思う狸だったが、急に現れて嫁にとのたまうような怪しげな男を警戒するのは無理もないかも。と考え直して、とりあえずお膳を下げます。とぽてぽて働く。
それに手伝う。とやはり弥勒が名乗り出る。
お銀
「なんとも愛らしいですねえ」
可愛らしい二人の様子に、まるで“彼ら”のようで思い出しますね、とぽつりと呟いた。そばに腰掛けたコロが同意するように尾を揺らし、“彼ら”に想いを馳せていると、コハクにがうー!がう!、と挑まれたので相手し始めた。
なんだかんだと面倒見の良いコロにクスッと笑って、さて。私も彼らの寝所の用意をしておかないと。と立ち上がった。
大牙がお手伝いしやす!と敬礼。
助かります。と大牙を連れて近くの部屋を片付け、布団を出していく。
この屋敷はいろんなものが遺されていて助かる。
狸たちの分の布団。
そして。
あの鬼の分の布団も、用意した。
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