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食べ終えて、狼たちは仁に絞められ語ることはできなかったが、その代わりクロが彼の生い立ちを教えてくれた。
仁は照れているようで、止めようとするもののクロには立場的にかなわないようで、クロの下敷きになった。
わー面白い。
クロは犬語で話しているが、お銀にははっきりと聞き取れた。
長くなりそうだと察知し、たぬき姿になった小百合を膝に乗せ、コロを背もたれにして聞く姿勢を作った。
クロ
『あれは今から十数年前のことだ』
深い山奥の鬼たちが暮らす村があった。
鬼狩りに襲われ、今では煌々と燃え盛る炎しか遺っていなかったが。
まだいるぞ!と鬼狩りがそれぞれ逃げた鬼たちを追う中、一人の女鬼が自分の手より小さなタライの中に入った布に包まれた幼児に声をかけた。
母鬼
「いいかい。これから何があっても、声を出すんじゃないよ。出したらお尻ぺんぺんだよ」
そう言ってぐっと抱きしめると、川が見えてきて、辺りを警戒するように見回したのち、タライを流した。
川の果ては滝。
幼児は怯え、潤んだ黄金の目でタライにしがみつき、川沿いに立って涙を流す母鬼を見つめていた。
そして滝から落ちる瞬間、母鬼が鬼狩りの凶刃に倒れたのが見えた。
恐怖渦巻く中、滝壺に飲み込まれ、流されていく。
その川の果て。
ぴくり。と馬のように大きな黒犬が黄金の瞳を露わにし、立ち上がった。
周りの群れの犬たちも、何かを感じ取ったようで不安そうに鼻を鳴らす。
風に乗って鬼たちの血の香り、そして煙の匂いが微かにする。
鋭敏な耳が何かの音をとらえた。
川の方から微かに泣き声が聞こえる。
長い脚で駆けつけてみると、川縁に引っかかったのか、布に包まれた幼子が寒さで震えていた。
咥えて引き上げ、濡れた布を剥がすと、その幼子は人間の子供のようだったが、額には女人の親指ほどもある小さな角が生えていた。
それが仁との出会いであった。
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