第二話 仁という鬼

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クロはその子を群れに引き入れ、仁と名付けて育てることにした。 寒さで震えていた鬼の子は犬たちの毛皮の温もりを分けてもらい、落ち着いたものの、意識を取り戻すと、母親を喪ったことを思い出したようで泣き喚き、体から火を吹き出し始めたため、普通の犬たちは怯えて近づけなくなった。 クロだけが炎に耐えられたので、幼児の側にくっつくと宥めるように舐めた。そうすると次第に炎が収まり始め、鼻を啜りながらしがみついてきた。 鼻水……。 仕方ないな。と舐めてやると、きゅむっと顔を顰められた。 少し面白かった。 それからも時々、感情的になると物理的に燃えてしまうので、他の群れの犬たちは近づけず、クロだけがそばにいてくれた。 成長するにつれて次第に落ち着き、クロの指導で火を操れるようになった頃。 犬たちの言語もわかるようになって、自分が同族でなく、“鬼族”だということ、同族は殲滅されてひとりぼっちという話を聞いてしまい、再び寂しくて荒れてしまった。 鬼狩りが村を襲いさえしなければ、自分は… 鬼狩りへの恨み辛みが重なり、再び鬼火の制御ができなくなって、群れの仲間たちもさらに距離を置き始め、クロだけが辛抱強くそばにいてくれた。 そんなある日、外部からやってきた2匹の狼が群れのボスになるため、クロとの決闘を申し出た。 結果、クロの圧勝。 あっさり降参して群れに入れてもらうことになった狼たちは『弥勒』と『大牙』と名乗り、人型に化けることができる妖と知ると、クロが仁のお付きにした。 本当の仲間がいないことで、孤独を感じているのはわかっていたから、彼に少しでも近い存在がいればと思ってのこと。言うなれば親心。 初めは不貞腐れていた仁だったが、人に化けて話しかける狼たち。いろんなものに変じたり、他の妖についてや経験したことなどを話してくれたりして、次第に心を開き、人の言葉、読み書き、そして鬼の姿を隠すための化け方などを教わった。 変化の素質はあったようで、角を隠し、人型に化けた弥勒たちと共に人の村に降りては人の世界を学んで行った。 そんな中、とある噂を聞いた。 『ツノが生えた骨頭の女が、これまた骨頭の熊のようなものを連れて鬼狩り隊を殺している』と。 どうやら殺されずに済んだ者が目撃したことを語っているようで、興味を持った仁はもっと詳しく!と強請って何度も聞かせてもらった。 鬼族特有の筋骨隆々さはなく、普通の娘同様だとか。 それにもまた興味が湧いた。自分と同じ、人型の鬼がいるのだと。 新たに鬼狩りが殺された話を聞くたび、クロたちに俺の仲間がまだいた!俺の同胞がたった一人で立ち向かってるんだ!と嬉しそうに語り、憧れと、そして、ほのかな恋の芽吹きを感じていた。 仁 「会いたいな」 炎も制御できてない自分が手伝うなんて言ってもカッコつかないだろう、体も鍛えよう、見た目も整えてみよう。 町娘たちに秋波をよく送られることを弥勒たちに教わっていたし、見目は悪くないはず。さらにかっこよくなろう。とおしゃれも覚えることにした。 そして、その鬼女に会った時、いい感じになれたら。なんて考えながら、クロたちと過ごし、己の神通力も鍛えていった。 そんなある日、ぱったりと鬼女の噂を聞かなくなり、ついに退治されてしまったんじゃないかなんて聞かされて、いてもたってもいられなくなった仁は彼女を探すために群れを出ることを決意し、クロに話すと、一緒についていくと言ってくれた。 クロの補佐であった犬に、自分は引退するから次はお前が群れを率いる立場になれと告げ、群れにも伝達した。 成長した仁と和解した今、群れの犬たちは心配したが、そうしたいならと惜しまれつつも快く送り出してくれた。 弥勒と大牙も、兄弟のように育ってきたし、そばについていきたいとのことで、断ったが半ば無理やりついてきた。      
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