第四話 お銀の過去

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雪の降り積もる山奥。 つぎはぎだらけの綿入り着物を着た小さな女の子が黒髪を靡かせ、小さな斧を持ち、うさぎを追って踏み固められた獣道を駆け抜ける。 お銀 「コロー!そっちいった!捕まえるよー!」 その言葉にまだ少し小柄でツノのない骨頭をした黒犬、コロがわふ!と先回りして足止めし、穴に潜り込むのを掘り出し、ようやく見つけ出すとくわえて引きずりだし、捕まえたよ!と胸を張った。 それにいい子ー!と愛らしく整ったあどけない笑みを浮かべて撫でつつ、少し哀れみを持って首の骨を折られ、ぐったりしたうさぎを撫でる。 お銀 「ごめんね。来世があれば私がきみのご飯になるからね」 そう囁きかけ、うさぎを腰袋に下げ、もっとおっきなのいないかなー。とコロと共に他に探している。 元気。 するとコロが鼻をひくひく動かし、気になる方に顔を向けると、バキバキと木の枝が折れる音が聞こえた。 お銀が振り向くと、小山のような巨大な猪が木々の間から鼻息荒くしながら現れた。 コロがお銀の前で構え、戦闘モードに入った。 お銀 「でっかいお肉だ…」 はヘーとなりつつ、小ぶりな斧を持ち直した。 お銀 (倒せるかな...) 暫しの間睨み合いが続いたが、コロがうおおーーーん!と沈黙を破るように遠吠えすると、反応したのか猪が突っ込んで来た。 お銀の襟首を咥え、横に飛んで避けると、どっどっどっどと重い音が聞こえて、再び猪が向きを変えて突っ込んで来た。 少し慌て、お銀を庇うようにおろして足の中に押し込むと唸って構える。 その時、大きな般若顔のこれまたつぎはぎだらけの着物を着たたくましい女鬼が木陰から現れ、どっせーい!と雄々しい掛け声と共に猪の牙を掴んで少々押されて、足元の地面に筋を残し止めた。 お銀 「かあちゃんっ!」 鬼母 「お銀!今のうちに後ろ足の腱を切りな!」 袖が破れた着物から顕になっている筋肉のたっぷりついた腕に力こぶすげー、と感嘆するコロ。 お銀が引き攣った顔をしつつ、ぐっと斧柄を掴む手に力を込め、うひィッと声を漏らしながら駆け寄り、猪の足の腱を斧で叩き切った。 プギーーーーっと悲鳴が上がり、バランスを崩して倒れ込む瞬間、コロに襟首を咥えられ、避けることができた。 お銀 「コロ、くびねっこやめてー」 苦しいよぅ、とウゴウゴしてるうちに母が大猪と格闘して首の骨をごきんとへし折り、トドメを刺した。 お銀 「さすがかあちゃん」 鬼なら子供でも持てる怪力なのだが…。 自分は人型であり、ひ弱。 病にだって簡単に罹ってしまう。 かあちゃんの足手纏いにならないよう頑張っているんだけどな…と俯いていると、ぽむっと大きな手で頭を撫でられた。 鬼母 「おまえはまだ子供だから仕方ないよ。それよりもウサギを獲ったのかい?凄いじゃないか」 腰袋に下げられたウサギを見下ろす。それに気まずそうに黒い瞳で見上げる。 お銀 「コロが捕まえてくれた…」 その言葉にううむ。と般若の顔を歪め、立派に生えた幼児の腕ほどもある長い角を撫でた。 鬼母 「大丈夫さ。おまえにはコロがいれば生きていけるだろう。コロのおかげで安心して狩りもできるようになったじゃないか。おかげで随分と楽になったよ」 お銀は嬉しそうに笑い、おかあちゃん、大好き!と足にしがみつくように抱きついた。 般若の顔がとても優しく弛んだ。 帰ろうか、そう言ってよいせと大猪を軽々持ち上げると、娘と手を繋いで帰って行った。 8尺もある背丈の女鬼と、ツノもなく人間と全く変わらない幼児の手の差はとてつもなく、母の小指を掴んで小走り気味であったが。 そんな二人のそばを走るコロ。 歪な二人と一匹を木の葉の間から夕焼けが優しく照らしていた。       
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