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とある城下町に、手妻師などの芸者が集う場所があった。
シャンッ
シャンシャン
どど、どん
どど、どん
どんどんどんどん
シャンシャンッ
ピーヒャラピピ ピ ピ ピ
ピーヒャラピピピ ピ ピ ピ
シャンシャンッ
どんどんどん
シャンッ
ピピピ ピ ピー
シャンシャンッ
笛と太鼓、そしてその中に混じる鈴の賑やかな音楽が路上に響き、町娘や通りがかりの旅人までが集う。
人々の目線の先。
鼻先まであるツノの生えた犬を模したお面をつけた黒髪の娘が舞っていた。それはそれは美しく、老若男女問わず見惚れる。
腰まである黒髪が陽を浴びて、さらさら揺れ煌めく。
楽器持ちが彼女の舞の魅力を高めようと、その手足の挙動に自然と合わせて笛を、太鼓を鳴らす。
シャン
シャンシャン
足が地面に触れるたび、鈴が軽やかに鳴る。
指先まで白魚のように白く美しく、羽衣を纏い、揺れ動くたびそれが風に煽られ、ふわりと膨らむ。
誰かが言った。
彼女は“舞姫”だと───。
しゃあ…ん。
踊り切ると、舞姫は平伏し、ご拝見、ご拝聴ありがとうござんした。と礼を告げ、懐からすすっと風呂敷を出して広げた。
拍手喝采、そしておひねり、菓子などがその風呂敷にどんどん放られていく。
町の男
「やあ、舞姫さん。素敵な舞だった。明日もここに来るのかい?」
そう声をかけると、はみ出したおひねりたちを風呂敷にかき集め、立ち上がった。
「さてな。明日は雨が降るようです。晴れれば舞に現れましょう」
恭しくご挨拶すると、明日は雨かい?こんなに晴れとるようだが。と男が笑う。
「信じなくとも構いません。私は雨の匂いがわかるのです」
くすりと微笑む、艶のある紅が引かれたその艶かしい唇に思わずほけえっとなってしまう町の男に、やだねこの人!見惚れてるよ!気持ちはわかるよ!と周りがおかしそうに囃し立てている。
うっせえやい!と面映そうに言い返す様がなんとも愉快で大笑い。
その間に舞姫は風呂敷に包んだおひねりと菓子を少し取り出し、楽器持ちたちに配った。
太鼓打ち
「いらんよ!わしら、姐さんの舞に惚れ惚れして勝手に合わせとっただけじゃけえ」
笛吹き
「そうさね。だって姐さん、鈴の音だけで踊るんだもんよ。もったいなくてさあ!」
それに舞姫は口角をあげ、お陰でより客を集められたので、これはその分のお礼とお捻りです。と半ば押し付けるように渡すと頭を下げ、散っていく客たちの間をすり抜けていく。
太鼓打ち
「なんともまあ、律儀で礼儀正しいお人じゃのう」
笛吹き
「綺麗な話し方だったねえ。どこぞの良家落ちかね。ほら、あそこの国の狭間でまた戦があったってよ。巻き込まれたんかもねえ」
可哀想なもんだとありがたそうにお捻りを懐にしまい、荷を纏めて帰っていく楽器持ち。
客たちの中に紛れていた腰に刀を差したガラの悪い男たちが目を合わせ、ニヤリと笑って舞姫の後を追った。
人さらいであろう。
さらにその男たちの後ろを追う饅頭笠を被った青年がいたが、気づかなかった。
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