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───翌日───
日が出てから一刻半経った朝。
土砂降りの中、雨傘を持った客人が大屋敷に訪れた。
仁
「手土産と共に再び参上つかまつった!」
仕留められた雉鳩を二羽、うさぎを二羽ほど担いでいい笑顔の鬼。
それに骨頭の犬、コロが顔を上げて隣の布団に丸まる娘を前脚でつついた。
コロ
『本当に来た。どうすル?』
舞姫
「……………」
布団の中でもぞごそとうごめき、枕元に置かれた人の頭より一倍大きな鬼の頭蓋骨を触れた。
2本の角があり、その手前には穴があった。
起き上がると、さらりと銀髪が肩を滑り降り、頭蓋骨を被った。
穴に舞姫自身の角が通り、4本角になった。
舞姫
「雨の日なのに…?」
けだるそうに布団からのそのそ這い出て、転がるコロの背にもっふぅ…と埋もれた。
すやあ。
仁
「こーこーあーけーてーッ!かわいいわんこが震えちゃってるよーッ!やさしさはいずこにー!!」
舞姫
「犬たちだけ入れてあいつだけばいばいしてもらえます?コロ」
もう諦めて入れたらどうだ。と舞姫を背に乗せたままてっこてっこ玄関へ。
ため息をついて身だしなみを整え、ガラリと扉を開いた。
いい笑顔の青年とその足元にはぬれた犬と狼たち。
錆色の子犬は胸元にin。
あら可愛いこと。
ひょい。と子犬を取り出すと獲物をサクサク受け取り、犬たちを上げる。
そんじゃ俺も。とニコニコで蛇の目傘を閉じて入ろうとする彼の鼻先でピシャリと閉めた。
仁
「犬に優しいだけ!!!!」
俺にも優しくしてよ!!!ときゃうんきゃうん。
がらり。とまた扉が開くと、ため息をついてやっと上げてくれた。
舞姫
「あまり騒がれるとバレてしまうじゃないですか」
雨の中とはいえ。と頭蓋骨越しに睨みつけられているのがわかる。
しかし彼は怯まない。
仁
「普段からその頭なのか?黒髪じゃなかったか?」
舞姫
「……これは母の頭蓋骨です。髪は染め粉で黒くしてるんです。地毛はこれです」
満足したならこの子達は置いてお帰り下さい。と黒犬を撫で、わふわふっとコロのしっぽに戯れるサビ模様の子犬を抱き上げ、手ぬぐいを持って来させて犬たちの脚を拭う。
仁
「頑なだなあ。せっかくの同胞なんだからもっと仲良くやろうぜ。そいつのでかい黒犬の名前はクロ。この錆犬はコハク、こっちの狼どもは白っぽいのが弥勒、茶色いのが大牙。ほんでこいつが小百合」
しゅるり。と首に巻かれた襟巻きが動いて、ひょこっと顔を出す。
仁
「たぬきさんです。ほらご挨拶」
小百合
「小百合ですっちゃ。どうぞよしなにっちゃ」
肩から降りてプルルっと体を震わせ、すくっと二本足で立ち上がり人語を話して会釈。
それに少し驚いた様子を見せる舞姫。
仁
「こいつらも人語を話せる。変化もできるぜ。おい」
その声掛けにぽむぽむん!と狼たちとたぬきが変化した。
弥勒と呼ばれた狼はなかなか凛々しい整った面差しの青年に。大牙と呼ばれた狼はワイルドさ醸し出す愛嬌ある小柄な少年に。
小百合と呼ばれた狸はどこか幸薄そうな美少女に変化した。
舞姫
「…すごい」
つん。
頬をつつかれてへふっ。とニコニコする大牙。
可愛らしい。
仁
「クロは鬼狩りで親を亡くした俺を拾って親代わりになってくれた。この子犬はゴミを漁ってたのを拾ってきたのさ」
見たところ他に人が居ねえようだ。こんな立派な屋敷を保つのは大変だろう。同胞のよしみで変化できるこいつらをやるよ。いずれ俺の嫁になるしな。といい笑顔。
舞姫
「それはとてもありがたい申し出ですね。嫁にはなりませんが」
実際広すぎて使う部屋しか掃除していなかったし、持て余していた。狼たちがじゃあ我々は掃除と、晴れたら草刈りを!と笑顔で胸を張った。
小百合
「うちはご飯作れますっちゃ」
ぽむん。と割烹着と三角頭巾を出して装着。
おやまあ可愛らしい。と眺めていたら腹の音が響いた。
そういえば朝食がまだであった。
早速ご用意しますっちゃ!台所は何処でしょうか?と問われ、素直に案内した。
保管場所には野菜や調味料などがしっかりある。
舞姫は肉と野菜を雑にぶちこんで味噌と塩を入れ、ただ煮込むだけの雑鍋を作るだけで、凝った料理はあまり得意ではなかった。
ちゃっかりついてきている男鬼はもう好きにさせることにし、調理場に立つ小百合をコロと共に後ろで眺めた。
ちょっと落ち着かなさそうな小百合。
足元にはコハクがちょんとお座りして涎を垂らして見つめている。
クロがそっと咥えて連れて行った。
いやーん!とわふわふ鳴き声が聞こえる。
食いしん坊なんだろうな。と何となく分かってきた舞姫。
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