第一話 舞姫と同胞

7/8
前へ
/48ページ
次へ
ぐい。 コロ 『近いゾ』 割り込んできた骨頭犬に、口説く邪魔をしないでくれるかね。お前の飼い主の番になる予定の男だぞ。敬わんかい。と胸を張る。 どこから来るんだその自信は!とがうがうがう!!!! 案の定、コロに食いつかれてあちこちビタンビタン叩きつけられてる。 ぽい。 雑に放られた。 ぐったりする仁。噛みつかれた部位から血は出てないが、涎で濡れてる。 コロ 『あいつ硬いナ』 カチカチと歯を噛み慣らし、舌舐めずりするコロを宥める様に撫でるお銀。そして助けないクロ。 なぜ助けない!?!?と飛び起きる仁に、クロがやかましいぞ。コハクが起きるだろうが。と牙を剥き出してきてヒェッと下がる。 お銀 「あなたの立場がわからなくなりました。あなたってこの一行の頭領みたいなものでは?」 仁 「そのはずなんだけどなあ」 頭をぽりぽり。 あーいてて。おもっきり噛みやがって。刃が通らない皮膚とはいえ痛いもんは痛いんだぞ。とぷーぷー。 刃が通らない…。 仁 「人型の鬼は神通力を持って生まれるってのぁ、聞いたことあんだろう?」 その言葉に頷くお銀。 仁 「俺は爪牙や刃を通さない肌に、変化、そして鬼火を操る力を持って生まれた。だから人間共に襲われたとき、俺は殺されずに済んだのさ」 だから生き残ったのか。と納得した。 仁 「お銀ちゃんはなんの神通力を持ってるんだ?昨日戦っているのを見たが、その頭蓋骨が頭にまとわりついて形になったり、爪を伸ばしていたよな。変化とかかい?」 その言葉に首を振る。 お銀 「私は自分の擦り傷が早く治るのと、獣と対話ができるのみです」 とてもしょぼい神通力だと揶揄われたものだ。 お銀 「一番良いのは、地水火風の自然を操る力、豊穣の力、治癒の力だと言われていますが、私はそのどれも該当しない。ただの小娘と何ら変わりない存在です」 頭蓋骨を撫でる。 お銀 「私が“爪”と“牙”を持てたのは、ある神の助けがあってのこと」 ある神…?と食い入る様に問う仁。 それに答える前に、弥勒たちが掃除が終わったと知らせに来たため、話を切り上げることにした。 小百合 「食事の用意ができましたっちゃ」 愛嬌ある微笑みを浮かべ、お膳に並べられた美味しそうな手料理を見せてくれた。 弥勒が真っ先にそのお膳を客間に運ぶ手伝いを申し出た。 彼の小百合に向けるどこか熱っぽいその眼差しに、何か察するものがあった。 弥勒は彼女を好きなのだ。 だが狼と狸。 客室へ向かう道中、あの二人、実ると良いね。と隣を歩くコロを撫で、こそっと呟いた。 へふ。 そうだな。と返事したのが伝わって、微かに口元を緩めた。 客間がピカピカになっている。 あんな短時間で。と驚きつつ、並べられるお膳を前に腰掛ける。 コハクもいつのまにか起きてご飯をよこせぇぇぇ!!!と大興奮で小百合にまとわりついている。あの子は元気すぎやしないだろうか。 仁 「拾った時からすっげえ食い意地はっててなあ…」 クロも少し疲れた顔。どうやら毎度のことらしい。 お疲れ。とコロが慰めている。 大牙がお前のご飯はこっちな。そう言って鳥肉をほぐしたものを盛り付けた皿を出すと、半ば突撃するように食らいついて、畳の上を滑りながら壁に激突して行った。 一心不乱に貪る子犬を思わず眺める一同だったが、気を取り直し早速食事にありついた。      
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加