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不幸ヤンキー、”狼”を守る。【6】
ショーケースへと激突し血だらけで動けないでいる雪乃宮に哉太は近づいていく。
「おいおい。なにそこでへばってんの? …お前は人のモンに手を出した挙句に民間人を殺そうとした…。”狼”としてはふさわしくないんじゃねぇの」
「うる…っせぇ…」
「まぁ、俺がお前を始末しちゃえば…それでいっか?」
「…黙れっっっ!!!」
挑発に乗せられ雪乃宮が無数の大きな氷を両手のひらで作り出し哉太に向けるのだが…哉太は動かずにただ1つの動作をした。
―それは手を叩くだけではない。
「…っ、なん…で、氷が…氷が!!! 回ってる…?」
哉太は音量を上げるように右手の指先を捩じるような動作をすれば、氷は跳ね返りもせずにただ右回りに空を回っているのだ。-右回りの動作をする氷は今度は回る速度を上げていきながら哉太は驚いて唖然とする雪乃宮に向けて解説をしていく。
「中学生くらいの理科の実験で”右ねじの法則”ってあったでしょ? 空気中に飛び回ってる電子が磁場に影響を与えて、そこにNとS極が反応して右回りに回るっていう実験。あとは電子が集まることで勝手に充電していくっていうのも習ったよね? …それを応用したんだよ。…氷の結晶を磁石にして、電池代わりにして電子を集めてね?」
淡々と解説を述べていく哉太に雪乃宮は意味が分からないというような反応を受けるが、構いもなく哉太は笑みを浮かべて衝撃の言葉を述べる。
「無数にある電子が速度を上げて回っていく。…まるでミキサーみたいになってな。そんで今、こんなに速くなっている結晶を怪我で身動きが取れないお前にぶつけたら…?」
―さぁどうなるでしょう?
にこにこと笑いながら問い掛ける哉太に彼は悟るのだ。…自分が木っ端みじんになってこの世から消えることを。恐怖で動けなくなる男…雪乃宮に哉太はスピードを上げていく結晶を飛ばそうとした時であった。背中を突然誰かに強く叩かれ操っていた氷の結晶が空へと飛散したのである。誰かと思い哉太が後ろを見てみれば…真剣な表情を浮かべた幸が彼の後ろに来ていたのだ。
「…何すんの? せっかく君の敵討ちしようとしたのに。なんで止めんの?」
強く叩かれた背中を擦りながら舌打ちをする哉太を傍目に幸は冷静に言い放つ。
「…人殺しはやめろ。この親子に見せたくない」
後ろを振り向けば泣きじゃくる少年と抱きしめる母親の姿を見て哉太は先ほどよりも小さく舌打ちをした。そんな彼を尻目に幸は恐怖で動けないでいる雪乃宮に近づくと、拳を掲げてから彼の頬に向けて強く放たせた。鈍い音の後に地面へと倒れて気絶をする雪乃宮の姿に哉太は呆然と見つめる。そんな中で幸は拳を軽くほぐしてから告げるのだ。
「こいつは罪を償って生きて懺悔すべきだ。簡単に死なれたらこいつのせいで死んだ人も、傷付いた人も…うかばれない。死んで楽にはさせない。…だからあんたが手を汚す必要はない」
幸の言葉に唖然とする哉太は彼の正義論になぜか笑ってしまう。
「…ふっは。…なにその理論。厳しいね~? 花ちゃんは」
噴き出して笑う哉太に疑問符を浮かべる幸。そんな中で誰かが呼んでくれたパトカーと救急車のサイレンが鳴り響き雪乃宮は本当に目を白くさせて気絶した状態で逮捕されたのであった。
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