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不幸ヤンキー、”狼”に襲われる。【1】
黒髪のサングラスの男は本当に奇妙な格好をしている。青と緑が入り交ざったようなカーディガンを纏い、レザーパンツを履いている姿。…そして極めつけは、均等に割られている腹筋を露わにしたへそ丸出しの黒いタンクトップが謎である。鍛え上げられた腹筋には大きな”狼”の入れ墨を入れていた。
そんな謎の男に声を掛けられ思考が停止している幸ではあったが、男が大木に歩み寄ろうとしていたので、幸は危険な行動をする男に大声で叫んだ。
「…おい、ここに近づくな!! あんたも巻き込まれて俺みたいに―」
「あ~、大丈夫ダイジョブ~。…俺、―”能力者”―だから」
「…はぁ?」
男の言葉に疑問を抱く幸ではあるがそんなのお構いなく木の枝が彼の首元を締め付けようとしていた。呻き声を上げ険しげな表情を浮かべる幸に男は呑気な様子であった。そんな男の様子に幸は自分が絞殺されるかもしれないという恐怖とそんな自分を本当に助けようとしている素振りを見せずにいる男に苛立ちを覚えるのだが…男は不可解な行動と発言をする。
「今から助けてあげるから~! …よ~し、いくぞ~!」
状況を何も掴んでいない幸に男は両手を広げた後、手のひらで大きな音を鳴らしたのだ。その音はとても強大で空気の圧が伝わってきたように思えてしまった。
耳を塞げずにいた幸は音の衝撃で目を一瞬閉ざした後、自身を見れば…絡みついていた大木の枝が幸から離れるように退けられ、逆に今度は男の身体に自身がくっついていたのである。理解不能な現象に幸は抱き留められつつも男の顔を見上げた。
男はサングラスをしていて目元は分からないが…ニヒルに笑みを浮かべている。そんな彼に対し幸は疑問をぶつけるのだ。
「…えっ、だって! さっきは俺、あの木に巻き付けられていて、そんで…動けなくて…」
言葉を投げかける幸など無視をして男はこのような言葉を笑顔と共に彼に送る。
「まぁ~。俺の能力を見たからには…? 助けた礼としてのお代は振り込んでもらうとして…」
「はぁっ?!! 結局カネかよっ!!? …じゃなくて、あんた何したんだよ? 一体―」
「俺はあんたって名前じゃないから。…場磁石 哉太。26歳。職業はヒ・ミ・ツ。…だって言ったら面白くないからね~。でもこれはウケるから言うけど…。…”狼”を争う守護者に一番近い”能力者”で、能力名は…有機物だろうが無機物だろうが”磁石”とか”磁場”に変えて操る能力」
すらすらと話していく彼に幸は唖然としてしまう。というか、この状況をすんなりと受けられる人間などいるのであろうか?そんな彼は哉太の言葉を復唱する。
「…磁石? 磁場? …”狼”…で、”能力者”?」
「そう。そんで、あの木とお前の磁力を反発させて、逆に俺とお前の磁力を引き合わせたってワケ。…分かる? おバカヤンキーこと”不幸の花人”君?」
ニヒルに笑う哉太に怪訝な様子を見せた幸は能力などといったインチキ臭い証明や自身のことを知っている…ことの前に、とりあえず男同士で抱きあっている事実を誰にも見られたくは無かった。
「…その前に俺から離れろよ。カネはまだバイトの給料が出てないからあんま出せねぇけど。…さすがに男同士で抱き合うのはきもちわりぃだろ?」
「まぁ、きもいな」
だがこの男は離さない。逆に愉快そうに笑みを浮かべている。だが幸はそうはいかない。
「そう思うんだったらさっさと降ろしてくれ。今なら少しカネあるし、だから―」
「…でも、…気が変わった」
彼を抱き締めて愉しそうに笑う哉太に何故か悪寒を催した幸は、自分から離れようとするのだが…ぴたりとくっついて離れずにいた。哉太の胸に手を置いて突き飛ばそうとしても、身体が強い何かで離れず動くことすら出来ないのだ。
懸命に離れようとする幸に嫌な笑みをしたサングラスの男…哉太は突然、幸の足元をすくい上げ自身の顔元へわざと近づけた。傍から見ればお姫様抱っこの状況に幸は動揺を隠せずにジタバタと動く。
「は・や・く降ろせって、この不審者!!!」
「だから哉太。か・な・た、だって。カネはいいや、興味ないし。…それよりお前と遊ぶ方が楽しめそうだし?」
素っ頓狂な言い方をされて幸は怪訝な顔をした。
「…はぁ? だから何言って―」
「…カラダで払ってもらうよ? 花人君?」
言い終わった後、幸をお姫様抱っこをした状態で哉太はとある場所へと優雅に歩くのであった。…ジタバタしている幸の攻防を受け流しながら。
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