夏の終わり

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 穴を掘った。  なるべく深い深い穴を掘った。  そこに悲しい思い出を放り込んで、土で蓋をした。  夏の間、穴は、雷雨と僅かばかりの涙を腹いっぱいに吸い込んで、やがて、そこからは芽が出、茎が伸び、その先端に蕾を宿した。  真っ白な満月の夜、蕾は花開いた。  まっすくで生き生きとしたその姿に感動し、茎の真ん中でぷつりと手折った。  透明な花瓶に挿して、自室の文机の上に置いて、矯めつ眇めつ眺めた。  窓の隙間から夏の終わりを告げる冷えた風が入り込んで、花が、見上げるように角度を変えた。
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