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〆1
サイケデリックな異空間に、仲間から切り取られたようにひとりとなったロバートが座り込んでいる。
後悔も落胆の念も、彼の頭には浮かんできてはいない。そうあることで、如何なる時も対処できるようにという教えに立ち返る事ができたようだ。
呼吸を整えながら、ロバートは今生きていることだけを感じていた。
なのでどのくらい時間が経ったのかわからないが、いつの間にかロバートの横に先ほど斬った鬼が座り込んでいるのに気付くのが遅くなった。鬼の気配がしない事も、大きな要因ではあろうが。
不気味なほど朗らかに笑う鬼が、気づいたロバートに声をかけた。
「ぬしは、面妖な奴じゃな」
「面妖?」
「初対面でいきなり斬られたのは初めてじゃ。殺気も感じなかったぞ。何故ぬしは、この羅刹を斬った?」
「そういえばそうか…。身体が勝手に動いていた」
「ほう。羅刹がお前に何かしたか?」
「妹はお前が仕掛けたウィルスの犠牲になって死んだ」
「わしの仕掛けたウィルスとな?それはどのようなウィルスじゃ」
羅刹の澄んだ声は、耳に心地好く響く。
ロバートには、嘘のない透明な言葉に思えた。
「知らないのか?」
「知っていれば聞かぬわ。阿呆かぬしは? まぁそうではあるまいて」
「申し訳ない!!」
ロバートは、自然と両手をついて平伏していた。
「やはりぬしは、面妖じゃのう…」
羅刹はスゥっと目を細めると、ゆるゆると唇をほころばせた。
「今からぬしは、羅刹のものじゃ。励めよ」
共に来いというように顎で先を促す羅刹とともに立ち上がったロバートは、床ともわからぬ道を自然と踏み出していた。
そうした彼を見て嬉しそうに笑う羅刹の声は、凪いだ海のような波紋を異質な空間に広げていったのだった。
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