〆1

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〆1

銀河間を数回時空移動するだけで、あっという間に230万光年をひとっ飛びする輸送カーゴに乗ってアンドロメダ銀河の入り口にして総元締めのような役割を担う惑星『グリーゼ』に到着する。 泣く子も黙る美貌と才能を持ち合わせたユーナリア・シエスタでも、自らが生まれ育ち暗躍している天の川銀河を出るのは初めての体験だった。 カーゴデッキ前方に映し出されるグリーゼの入国審査ターミナルの全貌は想像以上に豪華絢爛で、母国の『帝都』にはない奇抜な意匠とスケールの大きさで圧倒される。 祖国天の川銀河では、銀河の中心となる惑星『帝都』に他の銀河系から訪れるカーゴは一切入る事が許されていない。 天の川銀河では、『ケプラー44b』が入国審査専門の惑星となっていて、主な取引はその惑星で行なわれている。 ユーナリアが乗っている輸送カーゴを運営するのは、最近『帝都』の傘下に入った『ビアズリー帝国』の国営企業『桃源郷』という天の川銀河で最も巨大な組織。 いわば鎖国状態の天の川銀河の出島が『ケプラー44b』、そこで商いを行う大商人が『桃源郷』というところだ。 『帝都』以上に他銀河の情報と財力を握っているクソ忌々しい狸商人の首根っこを掴んで目を光らせているのが、ユーナリア率いる帝都御庭番もとい『帝都システムの番犬』シエスタ一族(いちぞく)である。 今回ユーナリアが就いた任務は、祖国天の川銀河にバイオテロを画策した疑いが濃厚なアンドロメダへの探索と真相究明、殲滅まで。 情報が全く無いわけではないが、気の遠くなる任務の重さと未知の銀河への潜入に百戦錬磨のユーナリアとて緊張が漲る。 「なのに…コイツらときたらグースカ寝やがって」 眉間の皺は美貌によろしくないので、均整のとれた美しい足を惜し気もなく晒して寝入る仲間二人の頬へと優美な曲線を描く土踏まずを持つ足底を押し付けた。 「ほら、着くわよ!あんた達起きなさい!!」 「うわっ!」「うおぉっ〜!」 今回の任務でやむなくバディーを組む事になった共に帝都で殿下という役職にある二人、桃源郷の元締という立場のアラステア・アーサーとユーナリアの幼馴染ローデンハイム・バーナードは頬の激痛とともにユーナリアの露わな美脚を目にして飛び起きた。 「何すんだテメェ!」 元ビアズリー帝国帝王で、数多の女を手玉に取ってきたとは思えないアラステアは存外ピュアな男である。 「あらあら〜頬を真っ赤に染めちゃって、ウブなのねぇ。私の甲を舐めて忠誠でも誓わせようかしら」 「て、てめ…。この女狐め!」 目の前で惜しげもなく見せつけるように晒してくるユーナリアの美脚に、目のやり場がないアラステア。 「ユリ〜。もう意地悪やめてよぉ」 「ここでは貴方の恋人ユリではなくてよ、ローデンハイム。アンドロメダで貴方は私の下僕のロバートなんだから気安く主人を愛称で呼ぶのはやめて頂戴」 そう優しく言い聞かせてやりながら、ユリはロバートの頬を器用に足を使ってえげつなくウリウリとさらに痛めつけている。 「SMの女王でもこうは…」 「お黙りなさい、アラステア。貴方は桃源郷のオーナーで、私は貴方のパートナーとなる憧れの女性なんですからね。役所(やくどころ)お忘れなく」 何の緊張感もなく寝ていた二人は、置かれた立場を嫌でも認識させられた。 特に付き合いの長いロバートは慣れているかもしれないが、本当の恋人同士であるはずの二人の前で悪魔で女王なユリに対して恋人を演じるなんて…どう転がっても生きて帰れる気がしないアラステアであった。
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