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〆2
入国審査を通過した扉の先に、開かれた世界。
原色のカラフルな色彩が舞う風変わりなロビーは、それでも昨今のどのターミナルとも同じように異国の香りはせず、無味無臭なのは残念だ。
吹き抜け天井の余りの高さに目を奪われつつも三人は、「せーの!」というよくわからないロバートの掛け声につられて初めて異世界の一歩を一緒に踏み出した。
そこはもう惑星グリーゼ、何があっても不思議じゃないくらい遠い異国。
一般客カーゴと違い、特別な輸送カーゴの到着とあって到着ロビーは閑散としていた。
そんな閑散とした中で、目立ったウェルカムボードを掲げて、如何にも胡散臭そうな作り笑いをした背の高い細身の男と思しき者が三人を見ている。
きちんとした黒のいかにも執事風のスーツをパリッと着こなして、気をつけ!と号令をかけられているような姿勢でウェルカムボードを見ろとでもいう風に、差し出している。
身長がこの三人に引けを取らない高さの挙句、頭にはピンとした長い長いウサ耳が付いているので益々大きく見える。
ユリは、そのウサ耳男の顔に張り付いた奇妙な笑顔に向かってさっそく毒付いた。
「その胡散臭い笑顔は止めて!」
いきなりピシャリと背が凍りつく言い方をされたウサ耳だが、気にもしない風情で胡散臭い笑顔のままに口を開いた。
「この顔は生まれつきなのでございます。お気を壊されたましたら申し訳なく存じますが、できましたら慣れて頂けますと幸いです、マダム・ユリ。長旅お疲れ様でした。主人より王宮にお招きせよとのお達しがございますれば、こうして歓迎の意を表しております。ようこそ、我がグリーゼへ!」
「王宮⁈ 聞いてないわよ!それに私の名前まで⁈どういう事かしらアラステア?」
アラステアは、少年のようなバツの悪そうな仕草で頭を掻いた。
桃源郷とグリーゼの親交は古く、さらに取引量も莫大でグリーゼの国家予算に大いに影響を及ぼしている。
桃源郷の主人が初めてグリーゼを訪れたとあれば、歓待しないはずはない。
「いや…成り行きで」
「成り行きですって?????脳みそあるのかしら、アラステアは」
ユリは隠密の文字を、直接アラステアの脳にこの場で刻みつけたい衝動に駆られていた。
そんな客人達をニコニコと胡散臭い笑いのまま、ウサ耳男は動じる事なくさぁさぁさぁと迎えの乗り物に誘ってゆく。
このウサ耳男のさぁさぁさぁは、すでに呪詛のきな臭い匂いがすると、ユリは感じていた。
無意識のうちに、するすると身体が誘導されていく。
ユリはこのウサ耳を引っ張り上げたくても、どうも上手く行きそうにないと感じるのも妙な感覚で『帝都』ではとんと味わった事の無いものだ。
ついでにユリは心の中で、厄介だな…とアラステアへの罵倒の台詞とともにひとり毒づいているのだが、腹を括る覚悟も同時に整えたのだった。
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