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〆4
「彼は、フィアンセのお気に入りの執事なんだがね…確かに余興に過ぎましたかな。詫びを入れよう。しかし、この程度で羅刹殿のお命を頂戴できるとも思えませんし、イリュージョンとはなかなか洒落た演出だ」
堂々としたアラステアと羅刹のやり取りを聞きながら、ユリはロバートが捕まったと同時に彼にパラレーダー(パラ言語を使いメッセージを相手の脳に直接送れる通信装置)を使って密かにパラヴィジョンを展開させていた。
ロバートと入れ違いに現れたウサ耳が、羅刹の首を拾って胴体の上に戻してそのまま羅刹の横でピンと耳を立てて怪しい笑顔を続けている。
「私もね、斬られたら傷になるのだよ。死なないだけでね、もちろん痛いのだよ」
ケロリとして、痛さなどこれっぽっちも感じてないようだが羅刹の傀儡ではなくやはり本体だろう。
「フィアンセ殿が、代償を支払ってくれるのかな?」
「…私の執事が、あのような事をしでかした事はお詫び申し上げます。でも、貴方は私の執事の妹を殺したのですから痛みだけで済むのなら安いものでしょう?」
「執事の妹?…ああ、あのウィルスでやられましたか」
しれっと言ってのけるところが憎いと、ユリは思ったが今はだめだ。
「本当に貴方がウィルスを持ち込ませた張本人でしたのね?驚きましたわ」
「ほぉ、アラステア殿のはったりに私が引っかかってしまったという事であろうか…それはそれは、また難儀な」
「まぁ、私の執事の事はさておき突然の侵略攻撃にしてはお粗末なやり方ですこと」
苛立ちの表情をちらりと見せたかのように思ったが、羅刹は目的は叶ったのだから良いと言ってのけた。
「今こうして桃源郷の元締め殿が手中に在るというのが、結果であろう」
羅刹は、満足そうな笑みを浮かべた。
「やはり歓待せねばなるまいて、アラステア殿。ゆるりと過ごされよ。商談はおいおいとな…ふふふふふ」
そう言って羅刹は姿を消した。
アラステアとユリは、感情の揺れを察知されないようにしながら胡散臭いウサ耳に従って部屋を移動した。
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