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用意された別邸は、床も天井もあるきちんと調度された部屋であった。
それも静かな古民家といった風情で、何やらクラシカルな落ち着いた空間に先ほどとは打って変わりすぎて
ウサ耳が退くと、ユリはすぐさまメタレーダー(相手の視覚やメタ認知を共有できる)で、メタヴィジョンを広げてロバートの視界に入った。
「あぁ…良かった。繋がっているわ。牢屋かしらね」
「喋ったらまずくないか?」
「大丈夫、結界を張ったから魔法攻撃でも平気よ」
「ほぉ。さてはその技術、ビアズリー帝国の者からせしめたな」
「人聞きの悪い言い方しないで頂戴!等価交換したわよ、ちゃんと」
「どうだかな…。で、ロバートは大丈夫なのか?」
「もちろん。桃源郷を敵にしたところで、何のメリットもないでしょうから交渉まで命は何とか保てるんじゃないかしら」
「お前なぁ…」
ユリが冷たいわけではなく、どう考えても分が悪い。
どうやら、鬼族らしい王の羅刹は異能者のようだ。
性質もわからないでは、勝ち目はない。
それにしても、今の今までロバートは妹の事などおくびにも出さずに振る舞ってきたが、その憎しみはいかばかりか知らぬ筈はなかったが無意識に身体が動いたのだろう。
「必ずこの手で…」
ユリがいつもと違う険しい表情を見せて呟く。
「お前も大概可愛げのない女だなぁ。まぁそういう女をいい女と言うんだろうけど…」
「何?今更気づいたのかしら。バカにもほどがあるわね。あなたと心中する気はないから、何とか尻拭いしなさいよ」
「へいへい、わかってるって女王さま。さて、とりあえずここから出ないとな…」
よし、とばかりに二人は普通に部屋を出る。
予想通りすうっとウサ耳が現れて連なる。
「どこかにお出かけでいらっしゃいます?」
「仕事に来たのでな。王には宜しく伝えてくれ」
堂々と歩いて行く二人に、怪訝な様子でウサ耳は付き従った。
「王宮は広うございますので、出口にご案内致しましょう」
「大丈夫だよ。入ってきたのだから戻れば良いだけの事だ。覚えているよ」
「覚えている⁈」
「それとも近道があるのかな?」
愉快そうにウサ耳をからかうように見やると、貼り付けていた胡散臭い笑顔が少し揺らいだ。
「ございません…」
「なら、行こうかユリ」
「そうね。それと私の大切な執事をくれぐれも宜しく頼みます」
ユリの眼差しは何とも言えない恐ろしさがあって、ウサ耳はぞぉっとした。
「お、お供いたしますでございます」
トコトコとついてくるウサ耳をそのままにして、二人はあっさりと人気の全くない不自然でだだっ広い王宮を後にした。
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