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〆5
アラステアとユリが何の迷いもなく巨大な王宮の門を抜けると、城門の先に光輝く街乗り用のカーゴが止まっていた。
桃源郷の現地法人からの出迎えだ。
どこのホストかと思うような顔立ちで、背は高いが細身で到底腕が立ちそうにない、たおやかな青年がドアを開けてふたりを恭しく誘った。
「お勤めご苦労様です。お頭さま」
「おう!久しぶりだな、隆盛」
「お目にかかれて嬉しゅうございます。ご立派になられて…」
「何ヤクザな挨拶交わしてんのよ!このカーゴにしたって、何でも光らせれば良いってものなの?どういうセンスしてんのよ」
先程のサイケデリックな配色といい、なんだかどこもかしこも怪しい雰囲気で落ち着かないとユリは思っていた。
「これはこれは、お美しい!ユリさまですね。ようこそグリーゼへ。私はこちらの現地法人の支配人をしております、隆盛秋と申します」
3人を乗せると…いや、ウサ耳もちゃっかりついて来たので3人と一羽?のいるカーゴはすうっと音もなく動き出した。
「ウサ耳!貴方、とんでもなく図々しくない?」
頭にきているユリはウサ耳の長い耳を思いっきり引っ掴んで捻り上げながら、文句を口にした。
ウサ耳は流石に痛かったようで、身をくねくねと捩らせながら、もふりとした尻尾を震わせて縮みあがった。
「ユリ、そのぐらいにしてやってくれないか…ウサ耳は、桃源郷が派遣しているバトラーなんだよ」
「桃源郷の?」
ユリはやはり胡散臭いウサ耳を睨みながら、解せないという表情をしている。
「そう、鬼族は闇夜魔界の世界で生きる生物でな。ちょっとばかり存在する空間が違うんだ。謁見の間やさっきの王宮はその境界のようなところだな」
「出ては来れないという事?」
アラステアは、ちらりとウサ耳に目をやってから、ちょっと違うと言った。
「普段はこのウサ耳が、あちらの世界とこちらの世界を行き来して王宮も取り仕切っている。こう見えてとても有能な魔術師さ。ビアズリーで言うところの、異能者だよ」
「とてもそう見えないわ」
「まあ、抜けてるところがあるから愛嬌だと思え。ただ桃源郷だけでなく鬼族とのダブルバインドの従属魔法を結んでいるからね。そこは注意だ」
ちょっと誇らしそうに、それでいて何とも怯えた目で部屋の角に避難したウサ耳はぴょこぴょこと耳を動かしている。
ユリはそんなウサ耳が、手(耳)旗信号でSOSのサインを出しているようにしか見えず、ロバートを連れて来れないような役立たずの間抜けめと心で罵っていたのだった。
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