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第14話:いわゆる最強のモンスターってやつ
次の日の放課後・・・例によって私達は生徒指導室にいた。
孫宙奈ことトパーズ・ソンソナという新たな仲間を加えた私達・・・であったが・・・
「結局、やつらのアジトに潜入できないんじゃ、襲撃するのを待つだけになっちまうな・・・」
溜息交じりに話す本間先輩・・・確かにこちらからは『打つ手なし』の状態である。
「そうですね・・・宙奈、アジトの入り方、知っていますか?」
「実は・・・そこだけは覚えているある。」
「え?それほんと?」
最後の頼みの綱とばかりにチャンチーが宙奈に問いかけると意外な答えが返ってきた。
「さすがのジェネラル・ノワールも孫宙奈として”現実世界”に存在させている以上そこを忘れさせるわけにはいかなかったみたいね・・・」
そこは私も納得した。
「ちなみにどこっすか?」
今まで黙って聞いていた大橋クンも身を乗り出して質問する。
「ソルトバンク本社の101階がそれある。」
「え?確か、ソルトバンク本社ビルって100階建てのビルよね・・・」
そう、この静かな街の中心に不釣り合いなぐらいバカでかいビルが建っているのだが、それが今話題となっている『ソルトバンク本社ビル』だ。
「その通りある。ぱーぱのいる社長室は100階・・・101階はノワールが細工して異空間への入り口にしているある。」
「なるほどな・・・あくまで”エレベーター”は異世界への移動手段ってわけだな・・・」
「ああ・・・これでソルトバンク系列の店で事件が起きたのは納得がいきました。」
チャンチーは強くうなずいた。
なるほど、ジェネラル・ノワールは土丘春人を名乗り、このビルの一部を拠点に人間を次々モンスターに変えていっていたわけか・・・
「こちらから出向くにはソルトバンク本社乗り込むしかないようだな。」
意を決したように本間先輩が声を上げた。
「え?大丈夫っすか?私達高校生がそんなところに行って・・・」
「う・・・」
大橋クンの心配はもっともである。
「ぱーぱになんとかしてもらうある・・・」
「頼むぞ宙奈!」
ここは宙奈に頼るしかなかった・・・
私達は急ぎ身支度を整え、街の中心にあるひときわ高いビル、『ソルトバンク本社ビル』に到着した。
ロビーに入った直後・・・案の定警備員に呼び止められた。
「悪いけど君たち、予約がないならこれ以上は入ってはだめだよ。」
口調は優しいが、目つきは鋭い。職務に忠実だが、融通が利かなそうな人だ・・・
「なら、ぱー・・・いや社長の娘、宙奈が急ぎの用で来たと伝えて欲しいある。」
いつになく真剣な表情で話しをする宙奈
「それで社長が来られるかなあ・・・まあ、一応連絡取るけど無理なら帰ってね。」
仕方ないな・・・という感じで連絡を入れる警備員・・・
ほどなくして・・・
「宙奈・・・父ちゃんに会ってくれるのはうれしいが、会社に無断で来るのはちょっとなあ・・・」
あ、娘に激甘のおやじ発見・・・
「ぱーぱ、土丘と連絡取れるあるか?」
「なんだ?急に・・・確かに、昨日からアイツの様子はだいぶおかしかったな・・・確かに今日は連絡を入れても全く反応が無いな・・・」
「ぱーぱ、このままだと大変なことになるある。まずは会社に入れて欲しいある。」
「うーん、自分の娘とは言え勝手に会社に入れるのはなあ・・・」
考えこむ社長、いくら大好きな娘とはいえ押しかけてきて意味不明なことを言い出すからそりゃそうなるわな・・・
「宙奈のおやじさん。頼む・・・大事になってしまうんだ!」
たまらず本間先輩が後押しするが・・・大丈夫かな?
「おお、君はこの前の・・・しかし・・・」
ただならぬ雰囲気を察した社長・・
「宙奈や友達がここまでが言うなんて珍しいな・・・よし。私は信じるぞ。ただ、おかしな事はしないでくれよ!」
いや・・・十分なほどおかしな事になっているんですけどね・・・
「よろしいんですか?社長・・・」
心配した警備員が声をかけてきた。
「ああ、かまわんよ。責任は私が持つから彼女達の好きにさせてやってくれ!」
「やった!」
「ぱーぱ、ありがとうある!」
社長こと姐那の父親の計らいで会社の中に入ることができた私達、社長と別れ、ロザリア一味のアジトを目指す。
「行くにはどのエレベーターでもいいのか?」
「いや、四番エレベーターじゃないとダメある。」
「あれ??」
とはいえ一階のエレベーターホールには三台のエレベーターしかない・・・
「ここじゃないある。」
なんと、エレベーターホールの奥の廊下の突き当りにさらに小さなエレベーターホールがあった・・・
「なかなか複雑な作りをしているわね。」
「ノワール・・・土丘が万全を期して増設させたある。」
う~ん、ここまでくるとあいつは慎重を通り越して臆病なのではないかと疑ってしまう。
「これが四番エレベーター・・・」
私たちが奥のホールにたどり着くと手前のホールにあるエレベーターよりも一回り小さいエレベーターが止まっていた・・・
このサイズなら普段、社員はあまり使わないだろう。
「急ぐある。」
宙奈にせかされエレベーターに乗る私達、5人乗るとかなり窮屈だ・・・
「1-1-42-10-4-6-8-11-2-5-4-10-100」
すごいスピードで階数ボタンを押しまくる宙奈、目的の階は101階なのだが・・・
「何、その複雑な押し方・・・」
私は思わず口に出してしまった。
「魔鈴・・・万が一だけど、うっかり社員が101階に入られたら困るでしょ?これが入るためのパスワードというわけ・・・」
「なるほど・・・」
チャンチーの解説に感心する私・・・
「お・・・珍しく伊藤の頭が地井の説明に追い付いてる!」
「本間先輩、酷い・・・」
そんな会話をしている間にエレベーターの階数ボタンに変化が現れた。
「100」のボタンの上に今までなかったはずの「101」のボタンが出現したのである。
しかも、ご丁寧に黒地に赤でおどろおどろしくデザインされている。
「無駄に凝ってるな・・・」
あきれる本間先輩、これはおそらくジェネラル・ノワールの趣味なのであろう。
「これが、101階のボタンある。押せば『アジト』に入れるある・・・」
「よし、押してくれ。みんな、準備はいいか・・・」
本間先輩が緊張しながら姐那に言う。
「押したある。」
すると・・・
エレベーターのモニターが101階を表示し、停止し、チーンという音とともに扉が開いた・・・
「いよいよね・・・」
私は、気合を入れるために一人つぶやいたが、足を踏み出した途端あっけにとられてしまった。
「へ?!そと?!」
なんとその先は薄暗く、だだっ広い地面が広がっていたのである。
そこには人影が・・・
「土丘、いやジェネラル・ノワール、ここにいたあるか!」
「フフフ、そうか・・・ジェネラル・ソナーがそちら側についたということで、ここまでたどり着いた・・・という事か・・・」
仮面の男は余裕たっぷりという感じで話をし始めた。
「ようこそ、我らが居城”夢幻城”いや”無限城”へ!」
よく見ると背後には城のような建物が立っていた。
どうやらここは城の入り口のようだ。
「ふざけないでほしいっす!”夢幻城”はボクたちのものっす!」
激高する大橋クン。そうか、もともとは彼女はここの出身だしな・・・
「ふん、残党が粋がるな・・・この城の今の主はロザリア様だ!」
お決まりのセリフを吐くジェネラル・ノワール・・・
今にも飛び掛かっていきそうな大橋クンをなだめつつノワールの話を聞く・・・
「ちょうどいい・・・これから”現実世界”を襲撃させようとした究極のモンスターがたった今、完成した!君らには実験台になってもらおう!!」
「え?」
ついにジェネラル・ノワールと直接対決か?と思っていた矢先の意外なセリフに私は拍子抜けしてしまった・・・
「お前!この期に及んでまだモンスターを生み出していたのか!!」
「許せないっす!」
怒りをあらわにする本間先輩、大橋クン、もちろん私も気持ちは同じだ。
「行け!ヒュドラ!!」
ジェネラル・ノワールの号令と共に、やつの背後から巨大なモンスターが現れた。
薄暗くて気が付かなかったが、高さだけでもノワールの4倍はゆうにある・・・
「言っておくが今までのモンスターと桁違いの強さだからな・・・」
ごていねいに解説をしてくれるジェネラル・ノワール
次第に姿形がはっきりとしてくるヒュドラ・・・
「うわ!なにこのドラゴン!頭が9つもある!!」
思わず私は叫んでしまった。
「伝説の竜の一体っす・・・」
おののく大橋クン・・・
「まさか・・・そんなモンスターまで生み出すことができるあるか!」
信じられないという表情を見せる宙奈・・・
「おい、見てみろ!こいつ水晶が9つもあるぞ!」
そう、本間先輩の指摘の通りであった。ヒュドラの9つの頭に各々赤い水晶が埋め込まれていた・・・
「ほう、戦う前から気づいてしまうとはな・・・段取りを無視するなんて興ざめなお嬢さん達だ・・・」
おどけた声で挑発するジェネラル・ノワール
「テメーの言い回し、いちいちムカつくんだよ!!」
あ・・・せ、先輩・・・素が出ちゃってますよ・・・
「まずは、応戦しないと始まりませんね。」
「そ・・・そうだな・・・」
こういう時でもチャンチーは冷静だ。この言葉に私達は我に帰った。
「みんな行くよ!」
私達は一斉にベルトのバックルにエンブレムを装着した。
「緑豊かな星々のその力の源よ!私に力を!ミラージュ・フォース!チェンジ!
001 ダイヤモンド・マリン ソード・フォーム
002 サファイヤ・カイナ ランサー・フォーム
003 アメジスト・チャンチー アックス・フォーム
004 エメラルド・オオハシ ウィップ・フォーム
005 トパーズ・ソンソナ クロー・フォーム
魔装少女隊!見参!!」
変身を終え、降り立つ私達
「うおおお!五人揃った!!ヒーローの王道じゃああ!!」
感動のあまり涙を流す私
「あんまアホな事やっとるとやられるで!」
「ほんとに・・・スキだらけではなイカ!」
即座に突っ込みの声が・・・
「なんだと~、クソヤギ!クソイカ!」
声の主はサポートの二名?ヤギピーとゲソリンである。
「ほんま失礼なやっちゃ!」
「アヤツは礼儀というものを知らなイのカ!」
「まあ、まあ・・・とはいえ今回は本当に攻略が難しそうですね。」
と・・・チャンチーがなだめている間にヒュドラがブレスを吐き出した。
みな、ブレス攻撃のせいでばらばらになってしまった!
「うわ!炎!!」
ヒュドラの頭の一つが私にめがけて炎のブレスを吹き付けた!
「でも攻撃は単調!水晶もむき出し」
颯爽とブレスをよけ
「ダイヤモンド・スラッシュ!よっし!」
額にチェーンソーを叩きつけ、今までのように赤い水晶を完全に破壊したはずだった・・・
はずが・・・
「え?なんで??」
砕けた直後、破片から再生する赤い水晶・・・
「くっ!再生?一体どうなってるんだ!」
すぐ近くでカイナさんの声が・・・
そちらを見るとカイナさんが破壊したであろう赤い水晶も、私の時と同じように再生していた。
「こっちも再生したッス!」
「こちらもです。」
「こっちもアル!」
次々に同じセリフが・・・
「ははは!だから究極のモンスターといったではないか。」
あまりの気分の良さに高笑いするジェネラル・ノワール・・・
「くっ・・・何か・・・手立ては・・・」
悔しがるカイナさん・・・
「モンスター・・・伝承の通りだと・・・同時攻撃しかないようですね・・・」
不意にチャンチーが何かをひらめいたようだ。
「そうッス・・・言い伝えでは、ヒュドラは9つの頭を再生する前に同時に切り落として倒したらしいッス。」
「つまり・・・九つ同時に水晶を破壊すれば勝ち目はあるアルか?」
「今はそれに賭けるしかないだろうな・・・」
「しかし、私達は五人、頭は九つ・・・このままでは同時破壊できません。」
「マリンはソードとブラスターで同時攻撃可能・・・ソナは二つのクローで二つの頭を攻撃できるか?」
「難しいができなくはないアル。」
「ボクも範囲内なら二つ同時攻撃できるッス。」
どうやらソンソナとオオハシは二か所同時攻撃が可能なようだ・・・
「私は・・・このアックスではさすがに難しいです。」
確かにチャンチーの斧は破壊力ある分小回りが利かない・・・
「となると・・・残る水晶は二つか・・・私もやってみるか、同時使用・・・」
意を決したようにカイナさんが言う・・・その手には・・・
「ボウガンのエンブレム?」
「実は、リザードマン倒したときに手に入れたのがそのまんまだったんだ。」
「カイナさん、体力の消耗激しいけれどやってみるの?」
「ああ、それしかないようだな・・・」
カイナさんはボウガンのエンブレムを握りしめ、そう言い放った・・・
そして、私達はそれぞれの『ヒュドラの頭』と戦う事になった。
9つの頭から炎、水、氷、雷、砂、風、刃、音波、闇と各々異なるブレスを吐くヒュドラ
ブレスは強烈だが、動きは鈍く、避けるのにはさほど難しくはない・・・
・・・が問題は攻撃だ。
「せーの!」
掛け声とともに一斉に技を繰り出す。
「ブルー・ブレイザー!やったぞ!」
カイナさんが1つ目の赤い水晶を破壊
「ヴァイオレット・スパークリング!こちらもです!」
続いてチャンチーが2つ目を破壊
「エメラルド・ストーム!連続破壊成功したッス!」
オオハシの広範囲攻撃で3つ目、4つ目を破壊!
「ゴールド・ブリンガー!もう半分超えたアル!」
巧みな爪さばきでソンソナが5つ目、6つ目を破壊
「ナイス!エメラルド・スラッシュ!からの!いっけー!エメラルド・ブラスター!!」
私も連続攻撃で7つ目、8つ目の赤い水晶を破壊!残すはあと一つ!
これに失敗するとすべてやり直し・・・緊張が走る・・・
「あとはあたしに任せな!一発必中!ブルー・スナイプ!!」
カイナさんがボウガンから放った矢は炎を纏い、額に埋め込まれた9つ目の赤い水晶を破壊した!
最後の一つを破壊した直後、ヒュドラの動きが止まった・・・
そして・・・
ヴォオオオオオオ
うなり声をあげながらヒュドラはその場に崩れ落ちた!
「やった!」
喜びの声を上げる私達・・・
パチパチパチ・・・
そのさなか拍手をする者一名・・・
「ふ・・・魔装少女隊、なかなかやるではないか!では、無限城の王の間で迎え打つとしよう!さらば!!」
「あ、逃げるな!」
相変わらず逃げ足の速いジェネラル・ノワールであった。
一方・・・
「畑中ちゃん??」
モンスターがいた場所には行方不明となっていたクラスメイト、畑中夏海が倒れていた・・・
そう、最強のモンスターに変えられていたのは他でもない彼女だったのだ!
そして、彼女の傍らには例のエンブレムが・・・
「”∞”のエンブレム?」
今までのエンブレムはすべて武器や道具をモチーフにしたものだったのだが、ここにきて記号のエンブレムとは・・・
「何や、武器のネタ切れたから記号にしたんか?」
「ヤギピー・・・そんなわけないでしょ・・・なんか意味あんのよ・・・たぶん・・・」
「たぶんってなんや。たぶんって・・・」
「このEGOパーツは・・・」
ヤギピーと言い合っている私達の間でオオハシが不意につぶやく・・・
「ん?オオハシどうした?」
「いや、何でもないッス!マリンさん大事に取っといて欲しいッス。」
「わかったわ!」
ひとまず私はいつも通りエンブレムをポケットにしまった。
「とりあえずジェネラル・ノワールの後を追わなきゃ!みんな!”無限城”に乗り込むよ!」
珍しく先導しようする私に声がかけられた・・・
「おい!まて!畑中をここに放置するつもりか?」
「あ・・・」
助け出したのですっかり安心して畑中ちゃんを放置するところだった・・・
「しょうがないな・・・私が責任もって畑中を送り届ける。それまでお前らで先に行ってくれ!」
「え?でもここまでの戻り方大丈夫?」
「もういないアル・・・」
私が声をかける間もなく、カイナさんはあっと言う間に消えてしまった。
うーん、他の人に任せた方が良かったんじゃ・・・
そう思いつつ私達は”無限城”をめざすのであった。
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