科戸の風は涼し

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 夏休みも終わり、学校が始まった。  U18コンテストの開催まで一か月を切った頃、放課後にいつものように絵を見に行くと、芹野が切り裂かれたキャンバスの前で立ち尽くしていた。  床にはキャンバスの紙片が散らばっている。 「何があったの?」 「知らねえよ!」  悲惨な様子に鈴村も困惑したが、それ以上に芹野は狼狽しているようだった。 「誰がこんなことしやがった! ふざけんなよ! ふざけんじゃねえよ!」  芹野は教室にある机を蹴り上げて、何度も壁を殴った。 「なんでこんなことすんだよ……」  弱弱しい声で呟いた芹野の手の甲からは血が滲んでいた。 「誰かにやられたのか……?」    鈴村がそういうと、芹野は小さく頷いた。  夏休みの間だけだったが、鈴村は芹野が絵に必死に向き合う姿を知っていた。  それが、こんな形で終わるなんて……残念だ。  そう思った時、鈴村の脳裏に出版社の人の言葉がよぎった。 「他人や自分に何か起きても、基本は他人事だと思ってる」  その通りだと思う。  今回のことも芹野のことだし、僕には関係ない。  結局他人なのだから……。  それでも……。  それでも……これは違う。そう思える。
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