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鈴村は教室の窓から外の景色をぼんやりと眺めていた。
コンクリートの地面から立ち上る陽炎が炎のように揺らぎ、意識が吸い込まれそうになる。
今日も日光の照り返しが激しい。そういえば、今朝のニュースでも言っていた。今年の夏は過去最高気温だって……。
学校はすでに夏休みに入っていたが、鈴村は勉強をしに学校に来ていた。しかし、机の上に開かれた参考書は1ページとしてめくられることはなかった。
昨日の出来事が鈴村の頭から離れず、集中を欠いていたためだ。
昨日、鈴村は出版社にアポなしで小説の持ち込みをした。
今まではネットを通じて何度も賞に応募していたが、全て成果は得られなかった。そして時間ばかりが流れ、高校三年生の夏になった。
受験までの期間も残すところ半年しかないため、小説に一区切りをつけるために持ち込みという思い切った行動に出た。
執筆しているというのが知人に知られるのが恥ずかしかったため、誰にも見られないように出版社へと向かい、出版社の人に小説を読んでもらえた。
「君、感情表現が得意なタイプじゃないでしょ?」
読み終わって一言目がそれだった。
その人は続けてこう言った。
「物語に君自身の感情が見えてこない。多分だけど、君、賢くてなんでもできるでしょ。そのせいで、なんというか……物事に一歩引いちゃってて、君自身のことなのにどこか当事者っぽくないというか、悪く言えばドライだね。他人や自分に何か起きても、基本は他人事だと思ってる。感情を出すのが苦手なのか、臆病というのか、君自身の心がこの作品に全く現れてない。それがこの小説から伝わった。まあ……まだ君も子供だと思うから、何か掴んだらまた来てよ」
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