科戸の風は涼し

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 鈴村は椅子から立ち上がり、気分転換も兼ねて校内を歩き回ることにした。  二年半通った学校といっても詳しく知らない場所もあり、新鮮だった。    その中でも目に留まったものがあった。それは一枚の絵だった。  その絵は廊下から見ても分かるほど、床一面絵具まみれの教室の中にあった。    絵の具にまみれた床の中心にある画架に立てかけられたキャンバスを見ると、鈴村は言葉を失った。  芋虫のようなものから蝶が生まれている絵だった。  蝶といっても形から「蝶」だと判別できるだけで、その羽や頭部は蝶のものではなかった。頭部は芋虫のまま、まるで羽化不全で生まれてきたような状態だった。  羽と体も多様な動物からできていた。  バックグラウンドの色使いは黒が基調となっており、白色のドリッピングも美しく、その蝶を引き出すために存在していた。    作品が綺麗なのは間違いなかったのだが、鈴村にとってはこの絵に現れている作者の感情の発露のようなものが特に魅力的だった。  鈴村は絵に魅了されて無意識に手を伸ばし、作品に触れようとした。
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