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芹野は青い絵具を鈴村の制服めがけて思い切り投げた。すると、そのはずみで絵具の中身が飛び出し、鈴村のワイシャツは青で染まった。
それを行った当の本人の芹野は一瞬だけハッとした表情をした。
鈴村もその出来事に動揺はしたが、何も思わなかった。
ただ、目の前の絵だけが気になっていた。
この機会を取り逃がすと何か大事なものを落としそうな気がしたからだ。
「その絵について、教えてほしい」
「無理。でも、ここで描くのを見てるだけならいい。それと……絵具……ごめん」
芹野は少なからず罪悪感を持っているようだった。鈴村はその日中、芹野が絵に向き合う様子を見ていた。
合間、鈴村が絵について尋ねても芹野は集中しているのか、無視しているのか返答はなかった。
彼女は何を表現したくて、この絵に向き合っているのだろう……。
その答えを知りたかったが、叶わなかった。
何も得られるものはなかったと半ばあきらめ気分で鈴村が帰宅しようとした時、芹野が鈴村に声をかけた。
「明日も来たかったら、来ていい」
それから、夏休みは鈴村と芹野の二人で過ごすようになった。
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