円舞

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円舞

満月が欠ける瞬間を、見たことがあるか。 それは、50億年続く舞踏会の夜。 円舞を踊る八重の輪。 水色。 金色。 青。 赤。 橙。 外側に行くほど美しいフープの裾。 腰を大きく反らせる背中。 踊る軌道は正円に見える。 そこに斬り込んでは抜けていく楕円もある。 たなびく後ろ髪の輝きが、長く弧を描く。 引かれては、離れていく。 勢いをつけて離れていく。 壁際には雲のように佇む観衆。 調和した音楽。 一定のリズム。 弦楽器の波長は、遠い人ほど遅れて聞こえる。 その中心近く。 青い瞳は、銀色の乙女を見つけた。 彼女は大理石の床を駆け回り。 やがて青い瞳とぶつかる。 倒れ込みそうになり。 青は、その消え入りそうな白い手をとる。 ガラスの靴に踏まれた足が痛い。 逃さぬように引き寄せる。 回り出す。 2人は、音の波に揺られ、くるくると舞う。 見えては隠れ、また見えては隠れ。 青い瞳に連れられて、銀はその微笑を絶やさない。 決して背を向けず、青だけを向いて。 45億年の円舞。 それら全てを、玉座の王が見つめている。 青は、気がつくだろうか。 玉座の真正面に来た時。 一際美しく輝く銀が、青の瞳の向こうから見える、玉座の微笑みに照らされていることを。 その銀の乙女が。 玉座の光から。 わずかに顔を背けた時。 満月が、欠ける瞬間。
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