(三)

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 兄は口の中を濁したが、しつこく尋ねると、「彼女だよ」と告白した。  その鼓膜の振動は、僕の頭の中を真っ白にした。  支度を終えた兄は「お前は気をつけて帰れよ」と言葉を残し、玄関に向かった。 「ねえ、兄さん……。兄さんは、その……、あの人と結婚するの?」  兄は右足と左足の靴を履いてから「さあな。そうかもな」とだけぼそっと答えた。 「ウソでしょ」 「さあな。別の女かもしれないし」 「そうじゃなくて」 「そうじゃない、って?」 「僕のことはもう大事じゃないの?」 「そんなわけないだろ」 「本当に?」 (続く)
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