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兄は口の中を濁したが、しつこく尋ねると、「彼女だよ」と告白した。
その鼓膜の振動は、僕の頭の中を真っ白にした。
支度を終えた兄は「お前は気をつけて帰れよ」と言葉を残し、玄関に向かった。
「ねえ、兄さん……。兄さんは、その……、あの人と結婚するの?」
兄は右足と左足の靴を履いてから「さあな。そうかもな」とだけぼそっと答えた。
「ウソでしょ」
「さあな。別の女かもしれないし」
「そうじゃなくて」
「そうじゃない、って?」
「僕のことはもう大事じゃないの?」
「そんなわけないだろ」
「本当に?」
(続く)
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