第八話『訓練と買い物と試練』

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【2】  姫美は、ショッピングモール近くの建物の前に立っていた。  まだかなまだかな、早く来ないかなー! と、ある人物を待っていた。そわそわしながら待っていた。  昨日は、今日が楽しみ過ぎて寝られなかった。目の下にはクマが出来ている。勿論、それは化粧で誤魔化している。 「不健康な女だと思われたら嫌だもんね……」  ショーウィンドウで自分の服装や髪型を念入りにチェックする。 「服装可笑しくないよね? 髪も寝癖とか付いてないよね?」  確認後、姫美は大きく頷いた。 「うん、ばっちり! 今日の私は最高に可愛い! ……と、思う……」  いまいち自信の無い自画自賛だった。  待ち合わせ時間は10:00。今は9:45……後十五分もしたら、彼はやって来る。 「き……緊張してきたぁ……」  彼女の身体はぶるぶると震えてくる。  そんな中、彼女は思い出していた……  彼との苦い初対面の日を――  怖かった彼との戦場での再会を――  彼と普通に話せる様になった日を――  あの時からは想像も出来なかった……まさか自分がゴーストバスターになり、生き返りという奇跡を経験し……  こうして……彼と買い物に出掛ける程の関係性になる事に……  そして何より――  まさか自分が――彼の事を…… 「お待たせー」彼がやって来た。  今日は念願のデート。  そしてそれは、今から始まる―― 「やっほぉー、おまたせぇー」  ピシッと、姫美の頭の中で何かが砕けた音がした。 「…………そうだ……邪魔者が居たんだったわ……」  そう……このデートは彼と二人っきりでは無い。  邪魔者がいるのだ――彩乃が。  こともあろうか、その邪魔者は彼と腕を組み現れた。 「離れろ……牛女……」 「えぇー? 何か言ったぁー? い、も、う、と、で、しちゃん?」更に彩乃は、ざまぁみろ、と言いたげな表情で怜の腕にそのふくよかな胸部を押し付ける。 「……淫乱牛女め……」 「あらぁ? 負け惜しみぃー?」  彩乃はクスクスと笑っている。  そして彼は満更でも無い様子で…… 「おっぱいがいっぱいだー……」等と虚ろな表情で、ふざけた事をぬかしていた。 「……ぶっ殺すわよ、エロ師匠……」 「えぇー!? 今ボク酷い事言われたー!?」  彼――怜はショックを受けた。  エロ師匠……確かに、今の怜にはピッタリのあだ名だったと思われる。それ程に鼻の下が伸びていた……地面に着く程…… 「デレデレしちゃって……ハニートラップに見事にハマってるし! 情けない!」 「てへぺろー」 「可愛くない! この世から消えれば良いのに!」 「毒舌ーっ!!」  そんなこんなで、姫美は不機嫌なまま、買い物は始まった。  そもそもこの買い物は、後に始まる『霊王との戦い』に備えた買い物だ。  通常の買い物では無い事を念頭に置き、怜が先導し行く店を選ぶ。  まず始めに服を選ぶ。  これは、海外での生活服だ。恐らく、向こうへ着くと一日中走り回る可能性があるけれども、一日中仕事着というのも気が立って仕方が無いため、隙あらば、私服に着替えて気分転換に外でもブラつけるだろうという怜の試みである。 「あなたみたいな阿婆擦れには、こういう不埒な服がお似合いなんじゃない?」 「アバッ!? ……ふ、ふぅん……そ、そぉいうあなたみたいなお子様にはぁー、こういうお子ちゃまな服がお似合いなんじゃなぁーい?」  バチバチと火花が散りつつも、無事服を選んだ二人は会計を済ませる。  しかし、服選びに時間が掛かった為、次に行く店を後回しにして、昼食にする事になった。  ショッピングモール内のレストランに入り、メニュー表を見る。 「あんたはぁ、『お子様ランチ』でしょぉー?」 「あんたこそ、この『牛コロステーキ』でしょ? あ、ごめんごめん……牛女が牛を食べるのはご法度ね、共食いになっちゃうもの」  ここでもバチバチだった。 「仲良く食べないとー、今日やっぱり特訓しちゃうよー?」  怜がそう言うと「「いっただっきまーっす!」」と仲良く食べ始めた二人。あーんまでしている。気持ち悪い光景だった。  昼食後……  三人が向かった先は、また服屋だった。  しかし今度は、生活服ではなく――  仕事着を選ぶ場所――スーツ専門店だった。 「……海外でのゴーストバスター活動ではー、必ずスーツの着用が義務付けられてるんだよねー。あ、もちろん、購入したスーツを、頑丈にゴーストバスター関係の人が弄ってくれるからー、そこは安心してー」 「で、でもでも怜……ここって……」姫美が指差すのは、飾られているスーツの値段札――  十万円と書かれていた。 「も、申し訳ないけど……女子高生にこの値段の店は……」 「ちょ、ちょっと流石にねぇ……」  ここでは、二人の意見はピッタリと一致した。それもその筈だ……  社会人でもない彼女達にとって、十万円以上の買い物は難しい……  しかし怜は「大丈夫だよー」とニッコリ笑う。 「ボクが奢るからねー」  と、あっさり言い放ったのだった。
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