第八話『訓練と買い物と試練』

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【3】  二人は自分が着るスーツを選ぶ。 「本当に良いの? 高いよ?」と、スーツに手を掛けながら不安そうに尋ねる姫美。  彩乃もどうやら同じように思っている様子。  対する怜は「だーいじょうぶ、大丈夫ー! ゴーストバスターの仕事で貯めてた貯金山ほどあるからー! 気にしないでー、必要な物なんだしー、誘った手前ー、こういうのはボクが揃えないとー」と笑顔で答える。  姫美と彩乃は顔を見合せ渋々納得。 「じゃあ……えっと……私はコレで……」 「イロノはこれぇ」  と、それぞれ手に取ったスーツを怜に見せる。 「おおー! 良い感じー良い感じー、早速会計に行ってくるねー」と、怜は足早に会計へ向かって走り出す。 「……良かったのかなぁ?」 「……いつか返しましょぅ……二人でぇ……」 「うん……そうだね……」  と、ここで店内で野太い声が聞こえた。 「何だぁ? ここで怜がスーツ買ってるっつーから見に来たが、なぁーんも良いのがねぇじゃねぇかぁ、あいつも塩っぱい所で買ってんなぁ?」 「……静かにシーツ選んだらどう? 本気でうるさい」  あの人……今、怜って……  野太い声の男性を、姫美と彩乃が見つめていると。  目が合ってしまった。 「んん? おぉ! ギャルじゃねぇかぁ! しかも可愛いし。わりぃ、ちょっくらナンパして来るわぁ」 「相変わらず、下衆な男……」ため息を吐きつつ、行ってらっしゃいと手を投げやりに振る女性。  野太い声の男性がグングンと近付いてくる。  背が高い――二メートルはある。  姫美と彩乃の前までやって来たその男性は、目線を合わせるように、その大きな身体を屈ませる。 「姉ちゃん達、今暇かぁ? どうだぁ? オレと一緒に遊ばねぇかぁ?」 「え……?」 「何? あんたぁ……」  姫美は動揺し、彩乃は威嚇し睨み付ける。 「いやぁ、二人共すっげぇ美人だからさぁ、オレ、一目惚れしちゃってさぁ」 「イロノ達は用はないわぁ……去りなさぁい?」厳しく突き放す彩乃。  男性の眉がピクっと動いた……  一色触発になるかと思ったが……「ガハハハ! ふられちまったかぁ! 面白いガキ共だぁ! ガハハ、なら敗者は去るとするかぁ! 急に声掛けて悪かったなぁ姉ちゃん達! じゃあなぁ!」と、あっさりその男性は立ち去ろうとした。  しかし……姫美には、気になる事があった。 「ちょ、ちょっと待ってください!」と呼び止める。 「何だぁ? べっぴんお嬢ちゃん、やっぱりオレと遊びてぇのかぁ?」 「ち、違う……その……聞きたい事があって……」 「聞きたい事ぉ? 何だぁ? オレの歳かぁ?」 「えっと……さっき、怜って言ってなかった……?」 「!?」ここで、その男性の顔色が変わる。真剣な表情で、姫美と彩乃の顔を交互に見た。 「……まさか!? テメェら……」  そして、その姫美の疑問は、この男の登場によって、確信に変わる。 「あれー? 命吉さんじゃーん」  男性が、声の方に振り向く。その視線の先には――  怜の姿が。 「ボクの弟子達にー……何の用かなぁー?」 「あぁ? 別に何でもねぇよ。それより怜、コイツらのどっちかがぁ、例の女かぁ?」 「そうだと言ったらー――どうするー?」 「さぁなぁ? そいつの対応次第だぁ」  凄まじい威圧感を放ち、牽制し合う二人……  姫美と彩乃はソレを感じ、恐怖で体が動かない。特に姫美は理解している――先程男性が口にした『例の女』とは自分の事である、と、理解している。 『例の女』――『生き返った女』―― 『その身に世界を滅ぼしうる霊を宿す少女』――  目の前のこの男性は、もし自分がそうであると知った時、何をして来るのか――? そう考えると、反射的に身構えてしまった。  ソレを見た男性が、ニヤァっと笑う。 「お前かぁ? 金髪女ぁ……ククク、ガハハハハハハ!!」突然、高笑いを始めた男性。 「身構えたっつー事はぁ……オレと殺り合う気かぁ?」  まずいと思った怜が、姫美の前に立つ。 「おうおぅ? 何だ怜、お姫様を守るナイトのつもりかぁ? ガハハハ! 笑えるなぁ? お前ぇ、その女に惚れたりしてんのかぁ? 相当べっぴんな女だぁ! 惚れるのも無理はねぇがなぁ?」 「惚れた好いたの話じゃないよー……彼女はボクの弟子だからー、守って当然じゃーん?」 「守られてばっかの弟子なんざ、いねぇ方が良いに決まってんだろぉがぁ、相変わらずお前は温いなぁ?」  この言葉に、姫美と彩乃は胸が痛くなった。  男性は言う…… 「どぉーせ、そんなか弱そうな女と一緒に『霊王』なんざ倒せはしねぇんだぁ、ここで今オレがぁ、あるべき姿へ戻してやろうかぁ!? ガハハハハハハ!!」 「うるさい……」 「痛てぇ!!」  そんな挑発的な発言をした男性の頭を、一緒にいた女性が叩いた。ばちーん! と叩いた。 「痛てぇじゃねぇかぁ! 見舞ぃ!!」 「あんたがうるさいからよ……それに遊び過ぎ……その子、怖がっているじゃない」 「ちょっとした冗談じゃねぇかよぉ、頭の硬ぇ女だなぁ? ……悪かったなぁ姉ちゃん、それと怜か……ちょいと遊び過ぎちまったぁ、痛てぇ!」  再び男性の頭を小突く女性。「頭が高い、もっと謝れ」との事だった。  頭を押し、無理やり男性の頭を下げさせると同時に、その女性も頭を下げた。 「この男が、すまない……馬鹿者で……」 「い、いえ……私は別に……」姫美が、そんな事しなくても結構ですと言わんばかりに気まずそうに返事を返す。「むしろ、私が誤解されるような事を……ごめんなさい……」 「……ふぅん……なるほど……」 「!?」姫美の前に一瞬で近付き、彼女の顔を間近でマジマジと見つめた。 「確かに、人畜無害そうな顔はしてるわね……怜」 「人畜無害そうな、じゃなくてー……本当に人畜無害だよー、その子はー」 「この子の名前は?」 「教えないー」 「そっ」あっさりと引き下がる女性。そっと、姫美の顔に手を当てる。そして一言。 「綺麗な花には、棘があるものよねぇ……? 怜?」 「……そういう言葉もあるよねー……その子には関係ないけどー」 「フフフ、随分と、怜はこの子を信頼しているとみた……安心して、手は出さないから……  今はまだ、ね――」  女性は言う。 「あなたとはまた、確実に会う機会があるわ……その時は、よろしくね……」 「は、はい……」姫美は、呆然と返事を返した。 「……帰るわよ、命吉」姫美達に背を向ける女性…… 「はぁ? コイツらともっと絡ませろよぉ!?」と、文句を言う男性だが……女性は冷静に言う。 「今、絡まなくても、その内また会えるわよ……そうよね? 怜……」  その内――『霊王討伐遠征』で…… 「もちろんだよー」怜は頷いた。  女性は笑って、最後にもう一度姫美に話し掛けた「ねぇ、お嬢ちゃん……」と、姫美が「は、はいっ!」と返事。 「私の名前は――墓守見舞(はかもり みまい)――次回会った時はよろしく……ほら、あんたも名乗りなさい……」 「ッチィ……鬼森田命吉(きもりだ めいきち)――『霊王』を倒す名だぁ、覚えとけぇ」  見舞と命吉は名乗った後、「それでは、またね……」と言い残し、まるで友達と別れる時のように去って行ったのだった……  その後……取り残された怜や姫美、彩乃の三人に沈黙が訪れたのは、言うまでもない。
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