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【5】
姫美、彩乃と別れた後、怜はとあるマンションへと向かった。
エレベーターに乗り、最上階へのボタンを押す。
そして、とある一室の扉を開く。
「いらっしゃーい」
と、怜を迎える声……いや、声だけではなく「れ、い、ちゃ、まー!!」と抱きついて来た。
その女性は、幽野冥――怜の実の姉だ。
「いきなり抱きついて来ないでよー、ビックリしたー」と、冥がこういう人間である事は理解していたものの、怜は驚いた様子だ。
「えへへ、ドッキリ大成功だねー!」
「まぁー、とんでもないブラコンを目の当たりにして、このお姉ちゃん大丈夫なのかなー? って別のドキドキはするよねー」
「ねぇ、怜……知ってた?」
「何がー?」
「このマンションで、ドキドキした人は……ドキドキさせられた相手にチューしなくちゃいけないんだって! だから怜ちゃまは私とキスする運命なのー! 怜ちゃまー!!」
「そんな運命は全力で拒否させてもらうねー」
飛び掛る冥を、ひょいっと簡単に避ける怜。
冥「ぶぅー」と不機嫌そう。
「……で、ボクが頼んでた件はどうだったー?」
怜が本題を話題に上げると、冥は途端に真面目な表情をつくる。
「それなりに良い所があったわよ」
「そっかー、ありがとー」
「あの子達をテストするのにピッタリな心霊スポットを選んだわ……今後の活動にもピッタリな」
「ふぅん……どういう場所なのー?」
「ここよ」と、一枚の写真を掲げる。
その写真を見た怜は……「なるほどねー……」と真剣な表情。
冥は言う、「どう? 本題の方も見通せてて、凄く良い相手でしょ?」
「……そこまで考えててくれたんだねー……うん! 確かにこの霊相手なら、判断し易いねー! ありがとー姉さん!」
「冥って呼んで」
「嫌ー」
今度は口を膨らまし、リスのような表情をつくる冥。
「ところで姉さんー、その本題の方はどうなのー?」
話を切り替える。
話は――『本題の霊』へ。
冥が口を開く。
「どうやら……あの国の軍隊が、戦闘機や戦車を使って殲滅を試みたみたい……」
「軍隊が!? 幽霊相手にー? そんなバカなー……で、どうだったのー?」
「察しの通りよ……軍隊は全滅……最悪の結果だった……何百機の戦闘機や戦車を、ものの数秒で破壊し尽くしたらしいわ……最悪の展開よね……戦闘機や戦車で『霊王』を除霊出来る訳がないのに……」
「でも姉さんは国のお偉いさんに言ってたんでしょー? ボクらがそっち行くまでは絶対動くなってー……」
「そうだけど……恐らく、私達のその指示も従えない程――
あっちは追い込まれているのかもしれないわね……」
冥は歯痒そうに爪を噛む。
怜は言う「……ならー、ボクらが早く向かわないとねー……一刻も早くー」
「ええ、そうね…………ねぇ怜?」
「何ー? 姉さんー」
「好き」
「冗談でもやめてー」
「ブーブー」
「ブーイングもやめてー、腹立つからさー」
「あんたもちゃんと鍛えときなさいよ」と、冥は急に真面目なアドバイスを送った。
「アドバイスが急過ぎて反応に困るなー……でもー、そうだねー、ちゃんとボクも鍛えてるから大丈夫だよー」
「…………そう……なら良いわ。引き続き鍛錬に励んでね」
「りょーかーい」
「それと……」冥はニコッと笑ってこう続けた。
「あの二人を……しっかりと導いてあげてね、怜」
怜は大きく頷いた。
「もちろんだよー」
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