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【6】
翌日――
怜達が住む街からバスと電車で五時間、目的の場所がある県に到着した。
広大な海が、三人――怜、姫美、彩乃の前に広がっている。
「うっわぁー! 綺麗な海ぃ! 泳ぎたぁーい!!」彩乃が目を輝かせる。
「こらこら、ここへ何をしに来たのか忘れたのかな? お、ね、え、ちゃ、ん。もしかして、そんな事もすぐ忘れちゃうほど脳みそより胸に栄養が言っちゃってるのかしら? だから巨乳なのね」と、毒舌混じりに姫美が釘を刺す。
「わ、分かってるわよぉ! 冗談よぉ冗談、もぅ……冗談も通じない妹で困っちゃうわぁ……それにぃ、巨乳はあんたもだしぃ?」
「はぁ!? ちょっ、あんた何を!?」
おっさんみたいな顔を作り彩乃は姫美の胸を揉みしだく。そのマシュマロの様な胸を……
怜はその様子を頬を赤くして横目でチラリと見ている。
巨乳が巨乳の胸を揉んでいる……
「良い絵だなー……でもこの状況をー、姉さんやー天地やー見舞さんが見たらー、目から血を流すぐらい怒るんじゃないかなー? いやー……羨ましがる、が正解かなー……」
ゴーストバスター六強ガールズは皆貧乳だったのだ。
しかし、そんな良い絵ばかり見ていても仕方ない。怜達はここへ、用があって来たのだ、その目的を忘れてはならない。
彩乃と姫美――
その、弟子入りテストの為に――
彼女達に――弟子達に試練を与える為に。
「でぇ、怜っちぃ。ここからは歩きなのぉ?」
「まぁねー、流石に砂浜や海岸にバスや電車は走ってないからねー……ここからは歩きだよー」
船で行く、という選択肢もあるが、その場所には船で到着する事は出来ず、結局は最後に歩く事になる。なら、ウォーミングアップがてら歩いて行った方が良いだろうという考えだ。
ウォーミングアップは必要。
何故なら彼女達は、これから霊と戦うのだから。
三人は歩き出す。
海沿いに砂浜を歩く、岩の足場を乗り越えて行く。
どんどん、足場が小さくなってゆき、大きな岩に囲まれ、遂に海は見えなくなった。
太陽の光すら届かない。
その目的地に近付くと共に、弟子二人はそれを感じていた。
「ね、ねぇ怜、ここってもしかして……」
「そうだよー……お察しの通りー、この先には俗に言う心霊スポットがあるんだよー」
「やっぱり……空気がおかしいと思った……」
不穏な空気を感じた姫美が、ゴクリと喉を鳴らす。
「あんたも気付いてたわよね?」姫美は彩乃へ問い掛ける。
彩乃は当然だという風に頷いた。
「勿論よぉ……でもぉ、この先に居るのってぇ……」
「そうだよー、この先にいるのはー――
レベルSの悪霊だよー」
「「!?」」二人は戦慄した。
レベルSとは――彩乃の家族を『呪い』で苦しめていた、あの黒檻踊と同等レベルの悪霊という事……
壁を超える越えられないの差があるとは言え、霊のランク的には『霊王』に次ぐランクの悪霊……
因みに、かの『拳銃の悪霊』こと――戦場宗一郎(いくさばそういちろう)は、ランクで言う所のレベルSにはとてもじゃないが収まらない。彼のランクは……
『霊王に近い悪霊』として、レベルRとされている。
因みに『霊王』は『霊王』だ。ランクで括るのが馬鹿馬鹿しくなるほどの強さを持っている。
一国の軍隊を、『霊王』一体で軽々と制圧するぐらいには強い。
「レベルS……なるほどぉー……それをイロノ達三人で討伐しようって言うのねぇ、分かったわぁ」
「違うよー」
「えぇ?」三人は立ち止まる。彩乃と姫美は怜の顔を凝視している。
そして怜は……今回のテストの内容を説明する。
「今回のテスト……君達への試練はー――
彩乃と姫美――二人だけでレベルSの悪霊を除霊してもらう事だよー」
「「!?」」二人の表情が強ばる。それを確認した上で、怜は続ける。
「けれど安心してもらっていいよー、君達のポテンシャルならー、レベルSの悪霊は倒せる筈だからさー」
「倒せる筈って……れ――」
「『霊王』と戦うんだよー? これくらいはして貰わないとー、本番でただの足で纏いにしかならなくなっちゃうからー、『霊王討伐遠征』には連れて行けなくなっちゃうからー……頑張ってねー」
姫美の言葉をかき消し、怜は言う。
姫美を重点的に見つめながら、言う。彼女の拳に力が入る。
『霊王討伐遠征』に参加出来ない――即ち……姫美は処分。
そんな訳にはいかない。
「分かったよ怜、ここから先は二人で行くから、ここで待ってて」
姫美が決意の籠った目でそう言い放つ。
「え? いや、そこまではー……まだここから少し距離がーあるし……」
「そうねぇ……あまりあなたに近付かれてぇ、合格にケチが付いちゃっても嫌だものねぇ……だから妹弟子と二人だけで行くわぁー」
姫美を後押しするかのように、彩乃も言う。
「彩乃までー……何でー?」
怜のこの疑問に対して、彩乃と姫美が答える。
「だってぇ、あなたが近くに居たら、あなたに頼ってしまうものぉ」
「怜ならきっと助けてくれる――そんな甘えが、私達を弱くしちゃうから……だからここからは、私達二人で行く! 必ず、無事に帰って来るから! ここで待ってて!」
「二人共ー……」
怜は、弟子二人の目を見た。
本当は、二人がピンチになったら怜は駆け付けるつもりでいたのだ。二人はそれを見抜いていた。
そんなものは不要だと、言わんばかりに。
「分かったよー……その代わり、絶対無事に帰って来る事ー」
「うん!!」
「分かったわぁ」
「絶対の絶対の絶対の絶対の絶っ対! だよー!?」
「当然よ!」
「任せてぇ」
「ならー……行ってらっしゃい!!」
「「行ってきます!!」」
怜をその場に残し……姫美と彩乃は歩き出す。
細い道を道なりに歩き続けると、禍々しい雰囲気が増した。
しかし、彼女達はそれを切り裂いて歩く。
歩いて、歩いて、歩いた所で目の前に建物が立ち塞がった。
「……彩乃……恐らくここが……」
「……そうみたいねぇ……ここから禍々しいオーラをひしひしと感じるものぉ……」
ボロボロの平屋の木造建築物――
入り口付近に看板がある、何かが書かれているのだが、字が消えてちゃんと読めない。
読めるのは……
『道場』の下二文字のみ。
「道場って事は……何か武道の達人とかなのかな?」
「そうかもねぇ……でもそれはぁ、入ってみたら分かる事よぉ――
行きましょう、姫美ぃ」
「うん!」
そして二人は、そのボロボロの道場へと足を踏み入れる。
試練開始――
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