プロローグ

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【0】  幽野怜(ゆうのれい)は先日、とある不運な女の子を蘇生させた。  蘇生――即ち、死んだ者を生き返らせる事。  それは、禁忌に触れる事である。 『死んだ人は生き返らない』――誰もが知ってる、いわば常識だ。  彼はそれをひっくり返してしまった。  禁忌を侵してしまった。  死者を冒涜してしまった。  よもや、その死んでいた女の子の身体に、『霊王に最も近い悪霊』を体内に宿すという暴挙に出たのだ。  人類を滅ぼし得る悪霊を、その女の子の華奢な身体に封じたのだ。  怜は、自分だけでなく、その女の子にまで罪を背負わせてしまったことになる。  世界を滅ぼし得る女――そのレッテルを、彼女に背負わせてしまったのだ。  その罪は重い。  しかし彼女は言った―― 「私ね……まだ、生きていられるのが嬉しいの」  その言葉に、怜はどれだけ胸を撫で下ろした事だろう……  救われた事だろう。  生き返らせた者と、生き返った者――その間には何のわだかまりも無かった。  けれど、本人達はそうでも、周りはそうは思わない。  その女の子が――世界を滅ぼしうる存在である事は、自明の理だ。  当然、反発している者も存在する。  事実、『その女の子を再び処分する』という声も上がっている。  だからこそ、怜はある条件を出した。  その女の子が、無害である事を証明する為に。  人類の味方である事を証明する為に。  同じく人類を滅ぼしうる存在――『十ノ霊王』の一体を二人で討伐する。  という、途方も無く難しい条件を出したのだ。 『霊王』――ここ千年を紐解いても、ゴーストバスターや除霊師達に霊王クラスの悪霊が除霊された数は、両手で数えられる程度しかいない。超が付く程の化け物。  その中でも、現在の『十ノ霊王』と呼ばれる十体の『霊王』は――  約三百年もの間、一体足りとも除霊されておらず、過去最強の顔ぶれとも呼ばれている。  怜は、そんな『霊王』を一体――倒すと言っているのだ。  これが如何に難易度の高い事か……不可能に近い事であるか……  けれども、怜と彼女はそれを達成しなくてはならない。  生き返った女の子――美永姫美(よしながひめみ)の為にも……怜はそれを何としても成し遂げなくてはならない。  彼女は拳銃を握り。  怜は拳を握る。 「さーて……歴史を変えちゃうぞー」  怜達は挑む―― 『霊王』に――  彼女の命を賭けた、世紀の大勝負が始まる。
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