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【2】
ムッスーと膨れている姫美。
「何膨れてんのさー」怜は苦笑いで尋ねる。
「遅刻……」
「え?」
「二時間も遅刻してる! 二時間、も! だから寝ちゃったの! 文句ある!?」
その姫美の言い分に、怜は呆然と目をぱちぱちさせる。
「ボク……遅刻なんてしてないんだけどー……」
「してるもん! 怜、廃校舎に18:00って言ってたもん! なのに現れたの20:00だったもん! だから寝ちゃってたんだもん!!」
「八時ー……」
「は?」
「ボク……夜の八時に来てって言ったんだけどー……」
八時――20:00。
そう、怜はちゃんと約束の時間通りに来ていたのだ。むしろ姫美の方が時間を間違え、二時間も早くここへ来ていたという訳だ。
そりゃ怜も現れない筈だ。
「…………私の間違い……?」
「うん、姫美の間違いー」
「…………」何やら考えるポーズを取る姫美。考え抜いた結果――
「何よ! そっちが時間通りに来たからって生意気言わないでくれる!? 私は日本人として当然な、二時間前集合をしていたのよ! 文句を言われる筋合いはないんだから!」
「あのー……文句を言われてたのはボクの方なんですけどー……」
「うるさい! そもそも、こんなか弱い女子高生をこんな時間に呼び出すなんて! 礼儀知らずもいいとこよ! 反省しなさいっ!」
「あれー? 何でボクが怒られてるんだろー?」
無理くり理由を付けて怒られた。
てゆーか二時間集合って何? そんな奇々怪々な事してる人いるのー?
「……で、話って何よ?」
言いたい事を言えて満足したのか、揚げ足を取られない内に話を変えようとしたのかは分からないが、姫美は話を本題へと移した。
怜が答える。
「やっぱり、昨日の会議ではー、君の事良く思っていない人がいたよー。処分も検討されている……」
「処分って……私を殺すって事……?」
「うんー……と言うより、君は元々死んでいた人間だ……生き返っていない状態――元に戻す、という事だろうねー」
生き返り等そもそも無かった――と、したいのだろう。
「バカだよねー……そんなの、人殺しと変わらないのにー……」
「そ、それで……」姫美は声を曇らせる。どうやら、処分と聞いて、怖くなったのだろう、恐る恐る問い掛ける。
「私はどうなるの? その……しょ、処分、されるの……?」
「絶対させない」冥は即答した。
鋭い目付きで、即答した。
「皆してさー、姫美の事疑ってるー……それが許せない! 姫美は、世界を滅亡させたりしない! 本当にムカつくー! 大体、処分って言い方も気に入らない――
姫美は家畜なんかじゃない!!」
「怜……」
「だから、一つ……条件を付けさせて貰ったんだー。君の存在を認めさせる――その為の条件をー」
「条……件……?」
「そう、条件……ボクと姫美の二人だけで――
『霊王』を倒す」
「は?」姫美は目を丸くする。
「れ、霊王って……霊の王様……よね?」
「うん」
「確か……あの『拳銃の悪霊』が、『霊王に最も近い悪霊』って呼ばれてたわよね? …………という事は――
あの拳銃の悪霊よりも――強いって事よね!?」
「うん、そうだねー」と、怜は軽く首を縦に振った。
「アホかぁー!! 何? そんなの無理に決まってんじゃん! あの拳銃の悪霊にどれだけ苦戦させられたか忘れたの!? バカなの!?」
「それぐらいの事を条件に示さないと、君の存在は認めて貰えないんだよー……」と、怜は真面目な表情で言う。
「人を生き返らせる――という事は、それ程の事なんだよー……」
普通――死んだ人は、生き返らない――それが原則――
この世の理――
人が生き返るという事は、それらを逸脱する蛮行だ。
「尚更君の中にはー、『拳銃の悪霊』も封印されている訳だしー……」
世界を滅ぼし得る力が――彼女の中にはある。
「……そうね……」姫美は、理解したのか渋々頷いた。
「分かったわ……頑張ろう、二人で『霊王』を倒そう」
「うん、頑張ろうー! もう頑張るしかないんだ――二人で『霊王』を倒そうー……ボクはもう――
姫美を失うのは嫌だから……」
姫美はその虚をつかれた発言に対し、顔を紅くし苦笑い。
「もうっ……バカね……」
「うんー、ボク、バカなんだー」と、笑う怜。
「でもどうするの? 今の私には……とても戦える力なんて無いわよ? あの人……戦場、だっけ? あの人みたいに銃を召喚したり出来ないし……」
「そこだよー」
「え?」
「それを姫美が出来るようになればー、ボクと力を合わせたら『霊王』ですら倒せる筈だよー」と、怜は手を拳銃の形にして言った。
「で、でも……どうやって――」
「そこで姫美に頼みがあるんだー」
「え? 頼み……?」
怜は鞄から一枚の紙とボールペンを一本取り出して、姫美に渡す。
「…………これで何するの?」
「紙面を見てくれたら分かるよー……読んでみてー」
促されるまま、姫美はその紙に目を通す。
その紙には――
『ゴーストバスター幽野怜 弟子入り志願表』
と、書かれている。
「え!? これって……」
「そうー……その書類にサインしてくれたらー――
ボクと姫美は――師弟関係になれる――」
そして怜はこう続けた。
「一緒に強くなろう……姫美」
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