第七話『二人の弟子』

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【2】  ムッスーと膨れている姫美。 「何膨れてんのさー」怜は苦笑いで尋ねる。 「遅刻……」 「え?」 「二時間も遅刻してる! 二時間、も! だから寝ちゃったの! 文句ある!?」  その姫美の言い分に、怜は呆然と目をぱちぱちさせる。 「ボク……遅刻なんてしてないんだけどー……」 「してるもん! 怜、廃校舎に18:00って言ってたもん! なのに現れたの20:00だったもん! だから寝ちゃってたんだもん!!」 「八時ー……」 「は?」 「ボク……夜の八時に来てって言ったんだけどー……」  八時――20:00。  そう、怜はちゃんと約束の時間通りに来ていたのだ。むしろ姫美の方が時間を間違え、二時間も早くここへ来ていたという訳だ。  そりゃ怜も現れない筈だ。 「…………私の間違い……?」 「うん、姫美の間違いー」 「…………」何やら考えるポーズを取る姫美。考え抜いた結果―― 「何よ! そっちが時間通りに来たからって生意気言わないでくれる!? 私は日本人として当然な、二時間前集合をしていたのよ! 文句を言われる筋合いはないんだから!」 「あのー……文句を言われてたのはボクの方なんですけどー……」 「うるさい! そもそも、こんなか弱い女子高生をこんな時間に呼び出すなんて! 礼儀知らずもいいとこよ! 反省しなさいっ!」 「あれー? 何でボクが怒られてるんだろー?」  無理くり理由を付けて怒られた。  てゆーか二時間集合って何? そんな奇々怪々な事してる人いるのー? 「……で、話って何よ?」  言いたい事を言えて満足したのか、揚げ足を取られない内に話を変えようとしたのかは分からないが、姫美は話を本題へと移した。  怜が答える。 「やっぱり、昨日の会議ではー、君の事良く思っていない人がいたよー。処分も検討されている……」 「処分って……私を殺すって事……?」 「うんー……と言うより、君は元々死んでいた人間だ……生き返っていない状態――元に戻す、という事だろうねー」  生き返り等そもそも無かった――と、したいのだろう。 「バカだよねー……そんなの、人殺しと変わらないのにー……」 「そ、それで……」姫美は声を曇らせる。どうやら、処分と聞いて、怖くなったのだろう、恐る恐る問い掛ける。 「私はどうなるの? その……しょ、処分、されるの……?」 「絶対させない」冥は即答した。  鋭い目付きで、即答した。 「皆してさー、姫美の事疑ってるー……それが許せない! 姫美は、世界を滅亡させたりしない! 本当にムカつくー! 大体、処分って言い方も気に入らない――  姫美は家畜なんかじゃない!!」 「怜……」 「だから、一つ……条件を付けさせて貰ったんだー。君の存在を認めさせる――その為の条件をー」 「条……件……?」 「そう、条件……ボクと姫美の二人だけで―― 『霊王』を倒す」 「は?」姫美は目を丸くする。 「れ、霊王って……霊の王様……よね?」 「うん」 「確か……あの『拳銃の悪霊』が、『霊王に最も近い悪霊』って呼ばれてたわよね? …………という事は――  あの拳銃の悪霊よりも――強いって事よね!?」 「うん、そうだねー」と、怜は軽く首を縦に振った。 「アホかぁー!! 何? そんなの無理に決まってんじゃん! あの拳銃の悪霊にどれだけ苦戦させられたか忘れたの!? バカなの!?」 「それぐらいの事を条件に示さないと、君の存在は認めて貰えないんだよー……」と、怜は真面目な表情で言う。 「人を生き返らせる――という事は、それ程の事なんだよー……」  普通――死んだ人は、生き返らない――それが原則――  この世の理――  人が生き返るという事は、それらを逸脱する蛮行だ。 「尚更君の中にはー、『拳銃の悪霊』も封印されている訳だしー……」  世界を滅ぼし得る力が――彼女の中にはある。 「……そうね……」姫美は、理解したのか渋々頷いた。 「分かったわ……頑張ろう、二人で『霊王』を倒そう」 「うん、頑張ろうー! もう頑張るしかないんだ――二人で『霊王』を倒そうー……ボクはもう――  姫美を失うのは嫌だから……」  姫美はその虚をつかれた発言に対し、顔を紅くし苦笑い。 「もうっ……バカね……」 「うんー、ボク、バカなんだー」と、笑う怜。 「でもどうするの? 今の私には……とても戦える力なんて無いわよ? あの人……戦場、だっけ? あの人みたいに銃を召喚したり出来ないし……」 「そこだよー」 「え?」 「それを姫美が出来るようになればー、ボクと力を合わせたら『霊王』ですら倒せる筈だよー」と、怜は手を拳銃の形にして言った。 「で、でも……どうやって――」 「そこで姫美に頼みがあるんだー」 「え? 頼み……?」  怜は鞄から一枚の紙とボールペンを一本取り出して、姫美に渡す。 「…………これで何するの?」 「紙面を見てくれたら分かるよー……読んでみてー」  促されるまま、姫美はその紙に目を通す。  その紙には―― 『ゴーストバスター幽野怜 弟子入り志願表』  と、書かれている。 「え!? これって……」 「そうー……その書類にサインしてくれたらー――  ボクと姫美は――師弟関係になれる――」  そして怜はこう続けた。 「一緒に強くなろう……姫美」
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