第七話『二人の弟子』

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【3】 「で、弟子って!? 私が怜の弟子になるって事!?」 「そう……」 「絶っ対! 嫌!!」 「そう言うと思ったよー……」  即効拒否された怜は、ある秘策を講じる。  怜は、廃校舎に戻る直前に、姉である幽野冥(ゆうの めい)から受けたアドバイスを思い出す。 「え? もし弟子入りを断られたらですって? そんなの簡単じゃない……怜ちゃま、まだ気付いてないの?」 「気付くー? 何にー?」  はぁ……と冥がため息を吐くと、「姫美ちゃんも大変ねぇ……末代もだけど……」と怜に聞こえないように呟いた。 「簡単な話よ、ある言葉を囁けば良いの」 「ある言葉ー?」 「そ、ある言葉。それはね――」  今こそ、その言葉を使うべきタイミングだ。  怜は囁く。 「そりゃー、ボクと二人っきりで訓練とかするのは嫌だよねー……分かるー、すっごく分かるー……でもさぁー、この弟子入り志願はさー――  末代さんも誘おうと思ってるんだよねー」  ピクっと、姫美の右耳が動いた。 「へぇー……」低いトーンで、威圧的な声が飛ぶ。 「あの女も弟子入りするんだぁー……あのガングロ巨乳牛女がー」  効果的面だった。 「ふぅん……そうなんだそうなんだぁ……ねぇ怜?」 「な、何でしょうか、姫美さん!」姫美のあまりの迫力にたじろぐ怜。 「前々から気になってたんだけどー? あの牛女と仲良いよねー? 何があったのかなー? 吐いてくれるー?」 「い、いや……それはー……」 「吐け」 「吐きまーす」  身の危険を感じた怜は、慎重に……末代彩乃(まつだい いろの)の件を話し始めた。  あの……悲しい呪いの話を……  話を聞き終えると「ふぅーん……なるほどねぇ……」と姫美は頷いた。 「悲しい話だよねー」 「……この間の、県全土の『呪い』っていうのも……規模が大きくて辛いけど、これはこれで辛い話ね……」と、神妙に声を落とす。 「そうなのよぉ……とても辛かったわぁー……」 「そうよね……とても辛いとおもぅ……――はぁっ!?」 「やっほぉー」  末代が現れた。 「末代さん!? 何で此処にー!?」驚く怜。 「何であんたがここに居んのよ!? 牛女!!」立ち上がり、指差しながら叫ぶ姫美。 「あらぁ……来ちゃダメなのぉ?」扉を閉め、保健室内に堂々と入って来る、そして怜の後ろに立つ。「なぁーんかぁ、イロノの話してたじゃなぁーい?」 「イロノもぉー、話に混ざる権利、あるんじゃなぁーい?」艶めかしく、怜の首筋に背後から触れる末代。 「ひゃっ!」と、怜は変な声を出す。彼はこそばがりなのだ。  そんな二人の様子を見た姫美は「ちょっと待て牛女ぁ!! 怜から離れろぉ!!」と巻舌で怒鳴りあげる。 「あらぁ? 居たのぉー? 金髪ちゃん」 「さっき私の言葉に返事してたでしょうが! 知ってた癖に嘘言うんじゃないわよ!! さっさと離れて!!」そう声を発しながら姫美は二人の間に入った。 「もぉー、イロノ達の仲を引き裂くなんてぇー……あんたいけずねぇー」 「あ、あんたが常識知らずだからよ! 男と女が近付いたら変な誤解生むわよ!?」 「良いわよぉ、別にぃ」 「は!?」  それは即ち――  ギロっと怜を睨む姫美。 「えー……何でボクを睨むのー!?」飛び火を受ける怜だった。 「まぁまぁ妬いちゃってぇー、子供ねぇー……美永さんはぁー」 「はぁ!? や、妬いてなんか……」 「弟子入りも断った癖にぃー」 「!?」この発言には怜も驚いた。  何故なら、末代を弟子にする――という話は、ブラフだったからだ。  聞いていたのだ。末代は。  元より、はなっから末代を弟子にする気は更々無かった。  事件を終えて表の世界に戻れた人間を、わざわざ理由も無いのに裏の世界へ引っ張るような事、出来る訳がない。  というか――そんな事あってはならない。  怜の額から冷や汗がドバーッと流れ出る。  そんな怜を横に、目の前で話が進んで行く。 「これぇ、あなたはサインしないんでしょう……?」末代は『弟子入り志願表』の紙をペラペラと掲げる。 「くっ……」たじろぐ姫美。 「イ、ロ、ノ、はぁー……」サラサラとボールペンで、それに名前を書いていく。 「おいー! 末代さん!!」ここで怜が飛び出した。ボールペンで書いている手を掴み、紙を取り上げる。 「こ、これ! 書く意味分かってんのー!?」 「分かってるわよぉー、分かってるからぁ、紙、返してぇ」 「ダメだー、末代さんをこちらの世界に引き込む訳には……」 「じゃーあぁ……コレ見たらぁ、弟子入り許可してくれるぅ?」 「へっ?」  末代が立ち上がり、怜へ向け手をかざすと―― 「っ!?」怜の身体が――後方へ吹っ飛び、激しく壁に激突した。 「え!? え? ……末代さん、これって……」  床にもたれかかる形で座り込む怜が驚愕の表情を浮かべる。 「そぅ、あなたの想像通りよぉ……」  堂々と歩いて、末代は怜の元へ…… 「『引き離し』――  これは私に取り憑いていた悪霊の力よぉ……どうやら身体を乗っ取られた時に残っちゃったみたいねぇ……困ったもんだわぁ……」  末代は、吹き飛ばされた際怜が手放し、床に落ちた『弟子入り志願表』を、手で拾わず『引き寄せ』る。  彼女の手元にその紙が渡る。  ボールペンをクルリとカッコ良くペン回しをした後、末代は署名の続きを書いた。 「こんな力を持ってしまったらぁ……イロノだって期待しちゃうでしょぉ?」 「……期待ー……?」 「そ、期待」末代はボールペンを机の上に置きながら、言った。 「あなたみたいにぃ――  人助けが出来るぅ、ゴーストバスターに、イロノはなりたいのよぉ」  そして、『末代彩乃』と書かれた『弟子入り志願表』を掲げる。  怜は真面目な表情で「……本気なのー?」と、尋ねる。 「本気よぉー……」 「とてもー、しんどい思いをするかも……だよー?」 「承知の上よぉ、イロノには両親いないしぃ、一人暮らしだしぃ、縛られるものは無いもないものぉ……それならぁ――  イロノはこの力を使って――困ってる人を救いたいわぁ」  そして彼女は続ける。 「昔のイロノ――みたいな人をねぇ」 「…………そっかー……分かったよー」  怜は、末代彩乃からその『弟子入り志願表』を受け取り、正式に受理する事を決めた。 「これからよろしくねー、彩乃」 「フフフ」彩乃は笑った。満面の笑顔だ。 「やっと名前で呼んでくれたねぇ……こちらこそ、よろしくぅ――お師匠様ぁ」 「……そこは今まで通りで良いよー」  怜にとって……『師匠』呼びは――こそばゆかったのである。
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