第七話『二人の弟子』

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【5】  23:30――姫美と彩乃が廃校舎から去った時間である。時間も遅い為、「送ろうかー?」と怜が尋ねると二人共「本当に!?」「マジでぇ!?」と満面の笑顔で反応。  またしても「私が送って貰うの!」「こういうのは姉に譲るものよぉ? 腰抜け妹ちゃぁん?」「はぁ!? あんただって唯の牛女お姉さんじゃない!?」……等と罵りあいが始まったので、見送りはせず、二人仲良く帰って貰った。  てゆーか、あの二人に見送り等必要ないと思った。  あの二人を襲う勇気のある奴なんている訳がない。  …………こうして、静かになった廃校舎。  怜は一人階段を登り、屋上へ。  空を見上げる。  夜空には、星一つとして見えなかった。曇り空だった。 「あらあらー……明日は雨かなー?」  そして怜は一人で物思いに耽ける……  姫美はあんな風に言ってくれたけど……やっぱり『霊王』と戦うのは荷が重い……どんなに考えても時間が足りない……という事はやっぱり―― 「ボクがやるしかないなー……」  しかし、怜自身も分かっている……今の自分では、『霊王に手も足も出ない』であろう事を……『拳銃の悪霊』と戦った事で、思い知った。  けれど同時に――希望も持った。 「……あの時の力を発揮出来れば……可能性はあるんだよなー……」  あの時の力――それは、『拳銃の悪霊』を圧倒した力―― 「何としてもー……あの力に自分の意思で入れるようにならないとなー……」  でなければ、打倒『霊王』など、笑い話にしかならない……自分が頑張らないと――  怜がそんな事を思っていると。  ペチッと、何かが頭に当たった感触が。「んー?」振り返るとそこに…… 「こーんな所で何してんの怜ちゃま? 風邪ひくわよ?」  冥が居た。紙を持っており、それで怜の頭を軽く小突いたようだ。 「何々? 私の事考えてくれてたのー?愛しのお姉様ってー? キャーッ!! 良いのよ? 良いのよ怜様! さぁ! 思う存分、愛しのお姉様の胸に飛び込んで来なさい! 熱い抱擁を交わしましょう!! さぁ! さぁ! さぁーっ!!」 「はははー、まな板ブラコンの胸は勘弁だなー」怜は笑ってエグい事を言う。  心を抉るような一言を……  ガーン!! 「ま、まな板……ぶ、ブラコン……」自分の胸を確認しつつ、大落ち込みを見せる冥。 「……で、何の用事ー? そんなバカな事を言いにここに来た訳じゃないよねー? もしそうなら帰ってー」 「……はいコレ……」  ため息を吐きつつ、冥はとある資料を怜に渡す。 「何これー?」  その資料は―― 「最近……とある場所で、猛威を振るう『霊王』のデータよ」 「!? マジで!? ありがとー姉さん!!」 「……どういたしまして……」冥はため息を吐く。そして、その資料に目を通す弟を横目で見守る。  怜は一心不乱にその資料に目を通すと――  険しい表情を作った。 「姉さんー……」 「なぁに?」 「姉さんは当然ー……コレ、読んだよねー?」 「もちろん……」 「どう思ったー……?」 「勝ち目0ね」  冥はズパっと言い切った。  曇りの無い目で、真っ直ぐに怜を見つめ。嘘偽りない目で――そう言い放った。 「…………強過ぎるわよ……『霊王』……その書面の通りの化け物だわ……あの拳銃の悪霊が、可愛く思える程よ……こんなの相手にするなんて、考えただけでもゾッとするわ……」 「それでもボクは勝つよ――何としてもー……」対して……怜もそう即答した。  決意に満ちた目で――そう言った。 「そっ」冥は軽く微笑むと……「頑張ってね……怜」と一言激励の言葉を残し、背中を向ける。 「姉さん」怜はその背中に話し掛ける。 「ボクはこのままで――終わらないからー!」 「私もよ……」  冥は一言だけ返し、怜の前から去って行った。  彼はそんな彼女を、微笑みながら見送ったのだった……
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