あの日、全力で泣いていた妹

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 この辺りには赤ちゃんはいないし、どこで泣いているんだろうと思って浩二と二人で走って外へ出た。 畑の方を見ると農家の夫婦らしい二人とそばにある木の下に乳母車(うばぐるま)があった。 今のようなきれいなベビーカーではなくカゴに車輪が付いているようなものだった。 いつの間にか、お父さんとお母さんも出てきていて、一緒に見ていると、また赤ちゃんの泣き声がしてきた。 農家のお母さんらしき人が腰を曲げて農作業をしているんだけれど気になるんだろう、時々、腰を起こしては乳母車の方を見ていた。 とても忙しそう。 すると、普段は無口なお父さんがお母さんに言った。 僕はその言葉をずっと忘れることが出来ない。 「この暑さじゃ、赤ん坊がかわいそうだから、おまえ、うちで昼間だけでも預かってやりなさい」 お母さんも一瞬、驚いていたようだったけれど頷いて「そうですねぇ」と返事をしていた。 僕は驚いて「え?知ってる人?」と思わずお母さんに聞いた。 「うううん、知らない人だけど」 子ども心にお父さんってなんて優しいんだ!と感動したものだ。
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