15人が本棚に入れています
本棚に追加
次の探索へ向かう前に雑貨屋へと向かった。最新の地図と方位磁針を手にし、リヒトからお金を借りて購入した。
(ゲームで見慣れた地図に方位磁針を選んだし、これで少しは役に立てるかな)
元々魔術も付与されているのか、気になる所を見ようとすると詳細が浮かび上がる。
そしてパッと見た限りでも知らない、行った事のない場所もある。ゲーム越しだったら迷わず遊びに行ってたんだろうなと思った。
「ボス……」
「っと…夢中になってた、何?」
「…そこでパンが売られていたから、買った」
手渡されたのはサンドイッチ。挟んである新鮮なレタスや卵、ハムもすごくおいしそう。貰っていいの?と聞けば彼は頷いた。
「ありがとう、じゃあ…いただきます」
一口食べた所で、これも食べ慣れた味でおいしいなぁと思う。食文化がそれほど異ならないのは本当に助かる。
「…ボス、その地図に位置情報を反映させていいか……?」
「そうだね、その方が助かるかも」
彼は俺が持っている地図に手をかざし、依頼に関する情報がこちらにも表示された。
「次に近いのはドゥマール砂丘かな、これもなんかブレてるね」
チカチカと点滅したかと思えば複数ヶ所に反応したり、しばらく安定したらまた位置がズレ始めた。
どちらにせよ現地に行ってみるのが早いだろう、それならば準備はしっかりしないといけない
「そうだ、体調はどう?」
「無用…」
疑うような表情で見ると、リヒトはどうすれば信じてもらえるか悩んでいるようだった。
砂丘、とはいっても結局は砂の上を歩いていく事になるのだから暑くなるんだろうなと思った。
「ゲーム上だとそのままの格好で行ったりするけど、環境の変化ってどう対策してるの?」
「…ある程度の変化には生まれながらにして魔術や武技で自然と適応するようになっている…ボスの世界は、そうではないのか……」
何それ便利、と返せば彼は首を傾げていた。そもそもゲームの世界であるし、そこで躓いてたら面白さも半減しそうだ
(ここだけじゃなく、他のゲームでも環境による変化って若干軽視されがちなのは…仕方ない部分だよな)
おそらくどこに面白さやリアルさを追求するかによってシステムが変わってくるのだろう
「ボスには…契約も加護もある、その点に関しては心配要らない……」
「俺は良くてもリヒトが倒れたら正直どうしようもなくなるし、すぐに言ってくれよ」
「……善処する」
結局はこのままでも問題はない、とのことだったので個人的な心許なさはあるが従う事にした。
それよりも今は荷物が増えた分が負担になるのでその方が返って危険だという
靴が砂と擦れる音がし始めた。一面だけ見たら砂漠だなぁと感心する。
ここからは地図を開いて確認する事にした。未だ位置がブレている情報に首を捻りながら歩き始めた。
「……!ボス!」
ぐんっと突然腕を引かれ、その拍子に尻もちをついた時にはリヒトの背中が見えた。
困惑していると彼は目の前に来た何かを蹴り飛ばしてから一度振り返り、俺を抱えて飛び退いた。
「へ、蛇…!?」
というより大蛇といった方が正しい。体の全体は砂から出ていなかったが、すぐに砂へ身を潜めて姿を隠した。
リヒトはため息をつき、空に手を伸ばしたかと思えば彼の武器である鎌を出現させた。
(もしかしなくても俺、喰われそうになってた…!?)
地図に集中していて全く警戒してなかったし、敵からしたら獲物がのこのことやって来たに違いない
彼は足元の砂を薙ぎ払い、黒い靄のようなものを出して砂と合体させた。次第にそれは黒い蛇となり、6匹ほど分散して現れた。
襲って来た大蛇に比べたらサイズは劣るものの、弱いかというときっとそんな事はないのだろう
2匹は動かず、残りの4匹は砂に潜り始めた。固唾を呑んでいると、大蛇が砂を散らしながら姿を現した。
動いていなかった残りの2匹が姿を変え、大蛇に咬み付いたかと思えば茨のようなものに姿を変えて強く絡み付いた。
大蛇は苦しみ始めたが、その最中にリヒトは容赦なく鎌で切り裂いた。
見慣れない出来事に呆然としていたが、ハッとなって立ち上がった。
他に危険がないか周りを確認してからリヒトに近寄ろうすると、俺を守るために付き添わせていたのか1匹の黒い蛇がついてくる。
「す、すごいね……」
思わず呟くと、蛇は舌を2回ほど出したりしまったりした。俺の言葉に応えたのかどうなのかは分からないが、ちょっと怖かった。
「……ボス、怪我は…」
「してないよ、あと…ごめん」
もう少し警戒したら良かった、と言えばリヒトは小さく顔を左右に振った。
「察知されないようにしていたようだ…気付かなくても無理はない……」
彼は鎌に付いた血を振り払い、武器を手元から消失させた。
緊迫した状況だったが戦闘におけるリヒトは格好良かった。俺も戦えたらなぁ、なんて憧れてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!