転移、そして出会い

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は、と目が覚めた。場所は変わっておらず、やはり自分の知る部屋ではなかった。 起き上がってみると痺れて動かなかった全身も動くし、声を発してみるが問題なく喋れるようになっていた。 「良かった〜…」 思わず声に出してしまったが、喋ることって大事だなと何だかとても痛感させられた。 奥から音がしたかと思えば男が部屋に入ってきた。食事だろうか、世話になりっぱなしで頭が下がる思いだ 「あ、っと……助けてくれてありがとうございます」 軽くお辞儀をすると、男は立ち止まってしまった。また何かに引っ掛かったんだろうかと不思議に思った。 男は軽く首を左右に振り、グラスと入れ替えるように食事を置いてくれた。 「食べるといい…」 「そんな…食事まで、何も返せないです」 現状手荷物が何もない。携帯や財布すら手元にないのだ 「食え」 この人怖い、ものすごく睨まれた。頂きますと小さく答えながら黄みのあるスープをスプーンですくった。 (何だろう、これはたまごスープ…?こっちはロールパンかな) 少し頂いた所でスプーンを置き、聞いていいですか?と尋ねた。男は静かに瞬いた。 「あの、ここって…どこか分かりますか?」 尋ねたそばから聞き方が違ったかな、と考え込む。記憶喪失ではないのだが、自分の部屋ではない以外が分からない 「…此処はトライン。君が居た世界ではない」 「…トライン……?」 思い当たり過ぎる名前だった。“トライン”とは、トリスピの世界を指す名称なのだ。 ということは、ここは間違いなくTrinity Spiritの世界ということになる。 「は……えぇっ!?」 そしてこの男性もこの世界の住人ということになる。通りで見た事あるような錯覚を起こす訳だ 違う、それよりもっと知っている。俺はベッドから立ち上がり、彼に近付いた。 鼓動が早まる。見た事があるどころではない、フードとマフラーを順番にゆっくりと下げていった。 「も、しかして……リヒト…?」 「…遅い」 静かにたしなめられた。何で、こんなの分かるわけないじゃん “リヒト”は俺が作った魔術師タイプのキャラクターなのである。 「え……えぇ〜…」 膝から崩れ落ちそうになる前に腕を抱えられた。さすがに絶句するだろ これは異世界転移、といえばいいのか。本当にトリスピの世界に来てしまった。 俺が得体の知れない何かに襲われていた時には既に転移していたということになる。 彼は俺をベッドに座らせた。下りていたマフラーとフードを元に戻して向き合った。 「…この世界はバグが生じている。ボスが原因とも言える」 「ボス…?」 リヒトが見据えてくる。そういえば彼はプレイヤーを、俺をそう呼んでいたっけ 「でも、戻り方が分からないよ」 「……それを探す必要がある」 それはそうだろうけど、探すって。この世界において俺は何の能力もないただの人間だ トリスピを知っているとはいえ、それはあくまでゲームの話。常識なんて通用しないかもしれない 「……俺も探す」 「…ありがとう、ございます……?」 知り合いと呼んでいいのかは怪しいところだが、彼がそばに居てくれるのは心強い 「どちらにせよ準備が必要になる…来い」 リヒトは部屋から出て俺を見いやる。俺はベッドから立ち上がり、彼の後ろについて行った。 クローゼットに案内され、この中で着られそうな物があれば選ぶように促された。 「改めてこう見ると異世界って感じがするな!」 こんなの着てたらコスプレか何かと勘違いされそうだ。出来れば地味な物にしようと探してみる。 「…決めたら出せ」 露出が多いのはやめておこう、動きやすくて過ごしやすい物がいいだろう 試着したり、触って素材を確認してみたりしてようやく決まった。 「リヒト?」 「後ろだ」 「ほぉぅ!?」 さっきまで居なかったのに、口から何か出るかと思った。 リヒトは俺から選んだ物を受け取り、すべてに何かを付与した。 「……最低限だが加護は宿した」 「ありがとう、早速着替えるよ」 すぐに着替えを済ませ、彼を探そうとするとまた真後ろに立っていた。 「心臓に悪いから後ろに立つのやめてほしい…」 「……難しい」 場所を変え、話し合いの出来そうなリビングに移動しテーブルの向かいにあるイスに座るよう促された。 「一旦整理をしたいんだけど、俺がここに居ることって良くないんだよね?」 「…良いか悪いか判断する段階ではない……だが、ボスをこのままにも出来ない…」 フードとマフラーがあるせいで表情は読み取りにくいが、身の安全を考えてくれていることはとてもありがたい 「元の世界へ戻るアテとかって、さすがにないよなぁ…」 リヒトは少し固まってから頷いた。そりゃそうだ、あったらとっくに教えてくれているはずだろう 「探す前に、ボスと契約を…希望、したい……」 契約?何かサインしたりとか?と聞き返そうとしたが、妙に落ち着きのない彼を見て口をつぐんだ。 ただならぬ雰囲気だ、命を捧げたりとかそういうものなのだろうか
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