1人目の戦士

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1人目の戦士

馬車に近付いてみると扉が自動で開いた。御者が居ないのも、居る必要がないからなのかなと考えた。 乗ろうとリヒトに促され向かい合う形で座ったが、俺は外の景色が気になって窓を眺めてみた。 ゆっくりした時間が取れるのか分からないけど、いつか観光とか出来たらいいなぁと頬が緩んだ。 「……ボス、2の地域は他の地域と比べて治安が良くない…注意してほしい」 そう言われても、リヒトから離れないようにするぐらいしか思い浮かばない。腰にある護身用の短剣をじっと見つめてみる。 「そうなんだよな、地域ごとに貧富の差があるんだったよね…」 「大通りを歩けば絡まれることはない……と思う」 うっすらとべーライズの地域格差を思い出した。この地域がどうだのまでは細かく覚えてないけど、そんな設定もあったような 「変わり者が、良くも悪くも多いだけだ…ボスは死んでも護る」 ぶにゅ、とリヒトの両頬を下から掴んでから彼を少し睨んだ。 「それはダメだ」 「……ふぁ()かった」 2の地域に着いた頃には夕暮れを迎え始めていた。降りてリヒトが支払いを済ませると、馬車はすっと消えた。 「此処は港から近い、夜は…海鮮丼でどうだろう」 「海鮮丼!?いいね、おいしそう!」 大通りを歩き始めると、魚介類を多く取り扱う店がずらりと並んでいた。魚の焼けた良い匂いもしている。 「くうぅ、腹が減ってくるね… あれ、トラインってここまで食にこだわる必要ないのに随分と盛んなんだな」 「…食べる事がここでは一種の娯楽なんだろう、俺は…… よく分からないが…」 彼をストイックにしたつもりはなかったのだが、料理のシステムを有効活用出来ていなかったのかもしれない (他にも料理はあったのに同じ物を何連続も食わせた覚えが…… 興味を持たないのは俺のせいか…?) 途端に申し訳なさが勝る。他にもおいしい料理はあるし、なるべく違う物を選んで食べていくようにしようと俺は静かに誓った。 「…ここだ」 入口にあるのれんをくぐると店員に案内される。メニューを開いてみると、馴染みのある海鮮丼に目を輝かせた。 「俺は…おすすめの海鮮丼で、ボスは」 リヒトと同じでいいよ、と頷いた。どれもおいしそうで迷っちゃいそうだった。 「……おいしいのだろうか…」 食べたことないの?という言葉をすぐに飲み込んだ。海鮮丼、記憶が正しければ食べさせた覚えがあるにはある。 いや待てよ、リヒトには食べさせたっけ?そこまではさすがに思い出せない。彼を除く2人は食べたかもしれない 「俺がもうちょっと、考えていればっ……!」 「……ボス…?」 あっという間に海鮮丼を食べ切ってしまい、俺は満足感でいっぱいだった。 マグロとサーモンの身が分厚かったし、大葉にはいくらがこんもり乗っていた。 醤油をわさびに垂らし、ご飯と共に味わうピリッとした感じもたまらなかった。 「…おいしかった……」 彼も満足気に箸を置きながらそう呟いた。観光もいいけど、グルメ旅をしてみるのも悪くないなぁと考えた。 このあとは宿で一泊してから目的地の湖へ向かう事になった。 店を出て早速宿へと向かおうとすると、突然リヒトに引き寄せられ困惑した。 それと同時に、目の前にものすごい勢いで何かが通過してから爆音がした。 「…な、何……!?」 何かが吹っ飛んだみたいだとリヒトは答えた。音のした方を見ると、男性が3人くらい転がっていた。 「っ…テメェ!!何しやがんだ!?」 3人は力なく立ち上がり、怒号を誰かに浴びせていた。けれどもここでは日常なのか、当たり前に野次馬が居て煽る人も居た。 彼らの前に現れたのは戦士のような出で立ちの男で、顔や腕などには傷跡がいくつも見えていた。 治安の悪さを目の当たりにして驚いていたが、それ以上にその人の顔を見て俺はうろたえてしまった。 「…え、……あっ…!」 リヒトと目を合わせるも、俺を不思議そうに見てくるだけだった。 「お前達を断罪する、悪く思うな」 彼がそう言い放つと、周囲から再び冷やかしや煽りが飛び交う。しかしそれを気にする素振りはない 一方でそれを言われた3人はゾッとした表情になり、それぞれ逃げ出した。 彼は追わずに拳を地面に勢いよく付けたかと思えば、各場所から3人の悲鳴が響いた。閃光が体を貫いたように見えた。 「ヒュ〜♪オニーサンこわ〜い♪」 野次馬を一瞥するも、彼は何も言わずに3人の元へと歩いて行った。 「…死んじゃったのか?」 「気絶だろう…捕えた後は、そうなる可能性はあるかもしれない……」 目の前で圧倒的な強さを見せられた。ゲームでもよく見た光景だった。彼の武器は剣だが、あの場では一度も抜かなかった。 忘れていたものが一気に思い出される。あの傷跡も、守る為の鎧も、使われなかった剣もすべて見覚えがある。 「あの人…… 俺が作った、1人目のキャラクターだ…」
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