1人目の戦士

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俺が思い出したことでリヒトにも伝わったのか、驚いた表情で遠くへ行ってしまった彼を見てから俺に視線を移した。 「…!……エースか…!」 それに頷き追いかけるべきか、そう顔に出ていた俺をリヒトは制した。エースが覚えていないかもしれないと その可能性は大いにありそうだ。下手したら俺達だけが一方的に知っている状況かもしれない、相手からすれば奇妙だろう 「でも、リヒトは俺の事を最初から知ってたよね?」 「…まだ記憶は、曖昧だが…… ボスが来る前に自然と俺は、俺達は…明確に主従関係を認識していた」 主従関係?と聞き慣れない言葉に首を傾げる。そんな設定やシステムなんてあっただろうか 「その時からボスを“主人(プレイヤー)”だと理解していた。誰に教えられた訳でもない…」 「うーん、俺もリヒトもあの人がエースだって思い出したなら… 話してるうちに思い出してくれたりしないかな?」 とは言ったものの、そう都合よく思い出したりするとは思えない。でもせっかく出会えたのにと眉をひそめた。 「……ボスがきっかけにはなるかもしれな、いっ…!?」 「なら早く行かないと!」 リヒトの腕を強引に組み、閃光が見えたであろう場所を目指して走り出した。 「何の用だ」 倒れている人に何かしながら彼は声を掛けてきた。後ろ姿でも、彼が現実のものとして存在している事に感動してしまった。 「っと、あの…… エース?…さん、ですか?」 ゲームで見たはっきりした顔立ちが、琥珀色のような髪が、振り返って彼の瞳が俺を捉える。 リヒトは俺の横を通りエースに近付いた。俺達を警戒をするような、やや厳しい表情をしている。 「エース… 俺は、分かるか……?」 じっと彼はリヒトの顔を見て、合間に俺を見たが知らないと答えた。 「人違いではないのか」 エースは捕まえた男を拘束している最中だった。男の手首を縛り、肩に担いで立ち上がった。 彼はリヒトよりも身長があって、その上体格も良いので尚更大きく見える。 「…今は手が離せない、用があるなら後にしてくれ」 「あの!どこに行けば会えますか!?」 食い気味に聞くと、彼は怪訝な表情になるも一度考えてから再び俺を見た。 「約束は出来ないがここ(2の地域)の集会所には顔を出すかもしれない」 あの3人を捕らえたのって、そういう依頼だったのかなと考えながら宿へと向かっていく それにしてもエースは格好良かった。筋肉凄かったし、男でも見惚れるくらいに!みたいな欲を詰め込んで作っただけあった。 縮んでなければ俺の身長は176cmだ、それでも頭一つ分くらいは身長差もあったと思う 「……エースは、特別なのか?」 リヒトが呟くように聞いてきた。そりゃあもう、彼からこのゲームが始まったようなものだ 「うん、あいつを作ってなかったらここまでやってなかったと思う」 「…そうか…… 受付してくる」 そう告げたリヒトの後ろ姿を見送る。俺よりもリヒトは身長が高いけど、約5cmくらいの差だと思う それに彼だって細身ではあるものの俺よりがっちりしている、細マッチョというのが適切かもしれない だからこそエースの圧倒的な存在感に震えた。彼も付いてきてくれたらより一層、心強くなるだろう 「―――…ボス……」 「…ん?あ、考え事してた」 扉が開いているにも関わらず、泊まる部屋の前で立ち止まっている俺をリヒトはやや困ったような表情で見ていた。 「…気掛かりな事は多いが、休める時に休め……」 そうなんだけどさ、と後頭部を掻きつつ開けてもらっていた部屋へ入った。軽装になってから近くのベッドに座った。 「明日なんだけど、湖へ行く前に集会所行っていいかな?」 彼は静かに頷きながら俺同様、軽装になって隣のベッドに移動した。妙な違和感に俺は首を傾げた。 (……あ、リヒトが居ないからか) 正しくはリヒトが近くで寝ない、という意味ではあるが そういえば初日を除き、トラインに来てからずっと同じベッドで寝ていたなと思い返して照れる。 「照明落とすね、おやすみ」 手を伸ばして部屋を暗くし、被るように布団に潜った。しばらくしてから彼も横になった音がした。 また、だ。前日の夢よりほんの少しだけど覚醒している。 (此処は…(ホーム)か?……何だ?苦しそうな声が聞こえる…) ぼんやりとした感覚のまま声を頼りに探しながら歩くと、リヒトの部屋の前に辿り着いた。 『ッあ…!……や、うぅっ… あぁっ!』 この声は、リヒトのものだ。何を?何してるの?聞くまでもないからこそ、夢の中なのに心臓がうるさく聞こえる。 ゆっくりと部屋に入ると、タトゥーの入った彼の背中が見えた。上下に弾むような動きをしていて、その行為はあきらかだった。 『んんッ!…待っ、は、あぁ…… ぅう、きっ…』 ビクビクと彼は震え、前に倒れる寸前で手をベッドに置いてなんとか持ちこたえた。 人様のする行為を、この場に居るのに俯瞰しているかのような感覚でそれを見ていた。
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