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仲間のカタチ
信頼関係が会話だけではなく戦闘における連携も目の当たりにし、圧倒されたと同時にもどかしさも感じてしまった。
(…もっと何か…… いや、何を…俺は戦えない、ただの一般人なんだから…)
ぶんぶんと頭を振ってから地図を確認し、点滅している周辺まで移動してみると反応が途絶えてしまった。
「あっ…!反応が消えた…… さっきまでこの辺りで点滅してたのに」
「……マスターやリヒトの話を聞く限り、やはり普通ではないようだな」
反応が無くなってはどうしようもなく、しかしいつまでもこうしてはいられないので愛犬探しのヒントになる物を探す事にした。
「骨に、首輪と…… あとは何だ?…あの、円盤…そうだ、トレーか?」
「……?…それは……もしかしてフリスビーの事を言っているのか…?」
吹き出しそうになるのを堪え、辺りを見回すが特にこれといって有益な物は見つからない
「もっと湖に近付けば何か見つかったりするのかな」
行ってみようか、とエースを先頭に湖の見える場所まで行ってみることにした。
「湖もだけど、景色が綺麗だな〜」
澄んだような空気に思わず深呼吸してしまう、近くに居たリヒトをちらっと見てみれば不自然に硬直していた。
「どうした?」
「……あれは、何だ…?」
視線の先を辿ると湖の水面上に白い何かが現れており、その周りはわずかに波を打っていた。
「生命反応があるな、初めて見る」
それは徐々に形を成すものの、人型の何かということしか分からない
『―――お前達、お前…… た、ちは、……』
性別の区別が出来ない無機質な声がこちらに向けて呼び掛けてきていた。
どこから声が出ているのかも不明で、これは会話が出来る状況なのだろうか
『お前……は!…お、おお…お前、だ…!』
訳が分からずリヒトとエースを見るも、2人もどういう状況なのか分からないといった様子だった。
不思議に思ってその人型に尋ねてみようとした時だった。急に立ちくらみのような感覚がしてふらついてしまった。
「ボス…!」
何が起こったのか、リヒトに抱えられている事は分かった。しかしこれは何だろう、頭がふわふわする。
(意識がっ…… 眠い訳でもないのに、何だ、ろ……う…)
記憶の混濁を感じる。これは誰のものだろう。消される。また消される。
今度こそ、私は。俺は、選ばれたい。忘れないで、消さないで
(何だこれ、気持ち悪い…吐き気みたいなのが、頭もガンガンするし……)
周りの空間は真っ暗だ、自分の姿を確認しようとするが手も足も見えない
ここはどこなんだ、俺はどうなっているんだ、湖に居たはず。
様々な感情や光景が過ぎては纏い、それを理解する度に気分が悪くなる。
(何なんだよ、何が起きてるんだ…気持ち悪い…… リヒトはどこ、エースはっ…… 誰か、助けて…)
その直後にどうして?と尋ねる声が響く。会話の延長のようで、不思議と俺に向けられたものではない事も理解した。
『あなたの事なんて、もう誰も覚えてないのに』
誰の声だろう、中性的とも取れる声で誰かにそれを投げ掛けている。1人の声しか聞こえない
『……可哀想、でも分かるよ。私もそうだったから』
(何の話……?誰と、誰…?)
こちらの意志なんてお構い無しに、考える間もなくぷつんと意識が飛んだ。
次に目が覚めた時は落ち着いた空間、だということは分かった。けれども体のあちこちが激しく痛んでそれどころじゃない
(ダメだ、考えるのも億劫で…体も痛い……)
寝ては起きて、また意識を飛ばして。長いのか短いのか分からない感覚で繰り返す。
一向に体調も良くならず、このまま死んでしまうのではないかという不安すらよぎった。
そんなのは嫌だ、重い体に鞭を打って這うようにしていると豪快にベッドから落ちた。
「ッ…!」
幸い床には柔らかく高級感のある絨毯が敷かれていた。
何となくいい匂いもするけれど、それより気になったのは部屋に誰も居ないということ
(リヒトも、エースも……どこに…)
直後にドタバタするような慌ただしい音が聞こえ、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ヴェン!起きたのか!?…ヴェンっ……」
不自然な形で抱き締められ俺は困惑したと同時に、この人は俺達が依頼を引き受けた依頼主のコルンスさんだ
(な、何で…… コルンスさんが…?)
わずかに下へ視線を向けてみると人間ではない、毛のようなものが見えて思わず目を見開いた。
さらに首を曲げて伸ばしてみると、俺自身が犬のような姿をしていた。
(え…!?……はあ…!?)
パニック状態になり、俺は軽く小刻みに震えた。どうして…?もしかして俺は、コルンスさんの愛犬になってる…?
「ヴェン… 私は、もう…キミが居ないと……う、うぅっ…」
きちんと体を起こせていないとはいっても、ここまで身長が低かった覚えはないし視界も人間にしては低すぎる。
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