仲間のカタチ

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奥にあるオシャレな鏡がある事に気が付き、姿が見えるよう覗くと背中を向けたコルンスさんと犬の姿になった俺が映っていた。 さらに離れた所には松葉杖が放り投げられたままになっていた。それほど俺、ではなく愛犬の事が大切だったのだろう 「…クゥーン……」 試しに声を発してみたが、当然喋れる訳もなかった。どうした?と何度も頭を優しく撫でられる。 コルンスさんの顔はたくさん泣いたからか顔が腫れているようにも見えて、依頼を引き受けた時と比べて別人にも見えた。 (…あの時のコルンスさんは、気丈に振る舞っていただけだったんだ……) 俺が、正しくはコルンスさんの愛犬が戻って来たということは無事に依頼は達成されたということなのだろう (でも、俺は…元々人間で、トラインの人物ですらなくて……) 本来の俺はどこで何をしているのだろう、コルンスさんの愛犬と入れ代わってしまっていたとしたら大変マズいような気もする。 考え事をしようと頭を回転させたところで再び頭痛が起き、思わず鳴きながら伏せてしまった。 彼の慌てた声がしてベッドへと運ばれる。おそらくコルンスさんが普段寝ているベッドなのだろう 柔らかく高級そうなベッドに移動され、心配そうに体を撫でながらもこちらを見てくれている。 うっすらと目を開けて見える自分の手は人間のものではなく犬の手で、改めて呆然としてしまった。 (…完全に犬だ、犬になってる…… なんで……?) 言葉を交わせなければ事情を聞く事も出来ず、謎の疲労からまた目をつむってしまった。 鳥の鳴き声にぴくりと反応し、俺は体を起こした。隣にはコルンスさんが寝ていて、まぶたは閉じていても涙の乾いた跡があった。 彼を起こさぬよう静かにベッドから下り、鏡の前で改めて姿を確認してみる。そこに映るのは依頼書で何度も見たコルンスさんの愛犬 名前はヴェン、と呼ばれていた。コルンスさんにとっては大事な家族なのだろう 頭も体も今は痛くない、大きな怪我もしていないようでそこは安心した。 もう少し鏡に近付いてみると犬は犬なのだが、狼にも似たような風貌や眼光をしていた。 (……見た目はカッコ良いけど、この状況を喜べるかっていうと…) 正直微妙なところである。ゲームだったらどんなに楽しいことか、今はそこまで呑気に考えられる思考は持ち合わせていない (何とかして2人に会う事が出来ればいいんだけど…) しかしこれをどうコルンスさんに伝えるというのか。言葉も伝えられない、依頼だって達成したらそこで終了だ (…俺の中に入っちゃってるのが愛犬のヴェン、くん…?だとしたら……) 異世界だからひょっとして犬も喋れたりするのだろうか、そうだとしたら俺だって喋れる手段があるはず。 いや、喋れるかどうかも分からないけど。異世界の、トラインに生きる動物はどう過ごしているのだろうか 「ウゥ……」 やはり言葉になりそうもない。諦めて周りを見回しても鏡と高価そうなタンスしか置いていない (何となくお金持ちなんだろうなっていう気はしたけど、それにしても質素というか…) 使う所にしか金は使わない、といえばいいのか。初めに出会った時も内装だけは豪華だったなと思い出す。 いくら考えても犬になった状態では埒も明かず、ベッドに戻ったところで空腹を感じた。 (…お腹、空いてきた……) まだ寝ているコルンスさんを眺めてから悩む。とにかくご飯を食べたいところだけど、この場合はドッグフードになるのか? (気になりはするけど、そうも言ってられないよな) 何か他に匂いを感じ取れないかクンクンしていると、それに気付いたコルンスさんは目覚めてすぐに起き上がった。 「……ゴメン…お腹減ったよね、準備してくるから待ってて」 2回ほど頭をゆっくり撫でられ、コルンスさんは松葉杖を使って部屋から出て行った。 ぼんやりと豪華な模様を見つめて静かに待っていると、足音が聞こえたのでベッドから下りて待っていると扉が開いた。 「ヴェン、食べられるかな?」 匂いは特に気にならず、ちらりと窺うようにして見れば食べていいよと彼は微笑んだ。 もう一度匂いを嗅いでから食べてみると、犬の感覚であるからかおいしく感じた。 (うん、おいしい…味覚というか、やっぱり感覚が変わっているんだろうけど) コロコロと転がるエサを追ってぺろりと平らげたものの、これでは食べる楽しみがあまりない ドッグフードとはいってもバリエーションが人間ほどはないので少し残念にも思った。 近くに置いてくれた水を貰いながらも、これからどうしようかと俺は悩んだ。
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