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指し示した後に彼はあからさまなため息をつき、面倒臭そうに腕を組んだ。
「これが証拠、普通はこんなの表示されないんだよ」
「もしかしてこのエラーについて調べているのか?それなら教えてほしい」
「さっきも言ったが俺も全て知ってる訳じゃねえ、理解するのは難しいかもしれねえが…その犬、に入ってるのは俺の捜している人だ」
険しい表情をコルンスさんは見せた。そして俺を見てしゃがみ込む
「……ヴェンの中に、人が…?」
ウゥ、と唸ればコルンスさんは俺の頭を優しく撫でた。そんなことあるはずがない、そう思いたいのも無理はない
「じゃあ…本物の、ヴェンはどこに?」
レイルはさすがにそれは分からないと返事をしながら顔を左右に振った。
「ヴェンじゃないなら、誰なんだ…?」
「――――ユヅキ、様だ」
聞き慣れない感覚にどぎまぎしてしまったが、俺が名前に反応したことでコルンスさんは困惑した表情になる。
「どうして、こんな」
「だからそれを俺は調べてる。こういう状態にしたのも許せねえのに、他人の犬も巻き込みやがったか…」
レイルは何かを知っているような口ぶりだった。心当たりがあるとしたらブループ湖に現れた人型の生命体みたいなものが俺に何かした、ぐらいだろうか
(次から次へと問題が起こり過ぎてて、何がどうなってるのかさっぱり分からないよ…)
コルンスさんも状況が理解出来ないだろう。せっかくヴェンくんが見つかったと思ったら中身が違います、なんて信じられる訳ない
この世界においてのステータス表示は絶対的な信頼があるのか、コルンスさんもすぐに俺がヴェンくんではないと判断したようだった。
「……信じられないが、ヴェンではないのだろうな…気の所為だと思っていたが、いつもの仕草もしなかったから不思議だったんだ…」
どうしたらいいか分からずに縮こまっていると、ゴメンねとコルンスさんが苦笑した。やや寂しげな表情を見て俺は胸が痛くなった。
「依頼を出すなら俺が引き受ける。報酬も要らねえ」
「そういう訳にもいかない、ヴェンと…中身のユヅキさんが…… ん?ユヅキ…?」
コルンスさんが思い出したように俺を見た。同時にレイルは不思議そうにこちらを見ていた。
「もしかして、ヴェンの捜索依頼を引き受けてくれた子か…!?」
ワン、と勢いよく鳴いて軽く頷いた。俺を認知してくれたことが何よりも嬉しかった。
(俺が、人間だった頃の状態を知っている唯一の人になる)
思った以上に俺は寂しかったみたいだった。俺を知っている人が居る、それだけでも気持ち的にはとても大きく感じた。
おーい、分からねえから説明してくれとレイルは不機嫌そうに言ってきた。
コルンスさんは俺と出会った経緯を簡単に伝えると、彼は少し悩んだ後に相槌を打った。
「それで…その犬の位置情報はどこ示してたんだ?」
「そのことなんだけど、実は位置情報が大きくズレててね…」
はあ?とレイルは素っ頓狂な声を出した。それももしかしたら関係あるかも、とコルンスさんは位置情報の記録を魔術で展開させた。
「あ?なんだこれ」
「おかしいな、これもエラーが出てる」
地図にはステータスと同様に“Error”と大きく表示されていた。
俺は顔を上げてざっくりと鼻先でブループ湖を示すと、ここ?とコルンスさんが指を差した辺りで頷いた。
「そこへ行く必要がありそうだな。ああ、依頼は出したか?」
「もちろんだよ、引き受けてくれ」
2人は魔術で特別依頼を成立させ、問題なく受理出来たみたいだった。
「…頼む、ヴェンと…ユヅキくんを取り戻してほしい」
「言われなくてもそうする。足治して待ってな」
そうだね、とコルンスさんは頷いた。そして俺に向かって再びしゃがみ込んだ。
「ユヅキくんも、気をつけて。無事を祈ってるよ」
ほんの僅かだが彼の瞳が揺れていた。それに小さく、けれども強く俺は吠えた。
コルンスさんと別れた後で、レイルは俺の目の前で跪いた。
突然の行動に動揺していると、彼は失礼と一言告げて魔術を展開した。
「……加護も、やっぱり反応してねえか…」
(レイルにも聞きたい事は色々あるけど、言葉に出来ない状況が一番辛いな…)
わふっ、と息が漏れる。それに気付いた彼と視線が合った。
「ユヅキのダンナ、必ず元の体に戻しますから」
軽く上下に頷くと彼はやや目元を緩めた。さっきまですごくガラが悪かったのに、この差は何なんだろうと思ってしまった。
(キャラメイクしたレイルとは印象が結構違うけど、これも何らかの影響がある…のかな)
どちらにせよここまで来て引き返すつもりもないし、彼を頼りに進むしかない
(…2人は今、どうしてるんだろう)
早く再会出来たらいいな、と2人を思い出しながら再びブループ湖へ向かった。
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