転移、そして出会い

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そう言った直後だった。大きめにぐぅう、と腹が鳴った。 「う……お腹空いちゃった、みたい…」 どうも決まらないなぁと思う。彼は用意しよう、と俺の手をそっと離してから立ち上がった。 (頼りっきりは良くないよな……何とかして自分の事は自分で出来るようにならないと) ボス、と呼ばれて俺は彼について行った。それにしても一人暮らしにしては大きく広い家だと思った。 そうしてリビングに移動し、先程と同じイスに座るように言われて従った。 「……物は限られているが、何か食べたい物は…?」 「丼物とかある?ご飯が食べたいな」 これは?と牛丼を差し出された。ホカホカでたちまち香ばしい匂いが広がった。 「え!作るの早いね…!?」 「…魔術だ」 魔術ってそういう意味では便利だな、と思った。俺も魔術が使えたら良かったのになぁと思う 水も受け取り、俺はいただきますと告げて食べ始めた。食べ慣れた味なのにとてもおいしく感じる。 「……食に関する魔術は、あまり好ましくない…通常に比べ栄養が低下する」 そうなんだ、と返した。やはり良い事だらけって訳でもないのかと納得した。 「でも俺はこれ、好きだけどな。腹が減ってたのもあるけど、牛丼が食べられるなんて思ってなかったし」 にこにこして答えると彼からはそうか、と一言だけ返ってきた。 向かい合う形で彼も座り、同じように牛丼を食べ始めた。 「ところで元の世界への戻り方を探すって、どう探せばいいんだろ?」 「……情報収集をしたい」 「ついて行ってもいい?この世界を自分の目で見てみたい」 何よりも好奇心が勝っている。遊んでいたゲームを現実のものとして認識出来るのは正直テンションが上がる。 もちろんゲームではあるけど、ゲームではない。首を絞められれば苦しいし、転移してすぐに襲われ死にかけた。 でもこんなことは、この世界では当たり前に起こり得る事。それならばできる限り楽しむ方がきっと、吉なのだ 「怖い事もあると思う、だけど…何もしないより何かしてから後悔したい」 「……そうか…」 相変わらず口数は少ないというか何というか、でもそれほど気にならないのは自分で作ったからかなぁとか考える。 「…明日、べーライズへ向かう」 黎明の街 べーライズ、そこはいわゆる1番始めに行く街で様々なチュートリアルがあった。 装備を揃えたり、食材を用意したり、依頼をこなしたり、どこかへ旅立ったりと幅広い事が出来る。 「…寝るといい、疲れているだろう」 「まぁ、お陰様で……」 あれから時間が経ったとはいえ、リヒトと、体を重ねてしまったわけで それにリヒトの事だから契約なんだし気にする必要はない、とか言いそうだ 「…気になるか……?」 シーツは新調したし片付けたから汚れてはいないはずだが、不満ならベッドを変えてもいいと言われた。 「いや、そこまでじゃ…」 どちらにせよもう寝ろ、とお箸や茶碗などをまとめてキッチンへ行ってしまった。 ごちそうさま、と伝えて部屋に戻った。そうなるとリヒトはどこで寝るんだろう この部屋に戻って来る気配はなさそうだし、体の負担は俺よりリヒトの方が大きいはず やっぱり、と思ってリビングへ戻って彼を探した。 「……どうした」 「おぉう!びっくりした!」 そうだ、リヒトは背後を取るんだった。振り返り、どこに居たのかと尋ねた。 この部屋に居たが、と不思議そうな表情をされる。 「寝ないの?」 「…寝る」 「どこで?」 「……ここで」 指し示したのは少し離れた位置にあるソファー、それはダメだと彼を引きずって移動する。 「あのベッドに2人は無理だ…」 「一緒がいいのか?」 そう聞くと彼は言葉に詰まった。そして苦そうな顔をしてこちらを見てきた。 何が言いたい、という顔をしているが俺はそこまで薄情ではない 「大丈夫だって、いいから寝よう」 狭いかもしれないがおそらくあの部屋、そしてベッドはリヒトの物だろう 男2人で寝るなんて、と頭をよぎったが俺自身はそれほど気にはならなかった。 「あ、でも…無理には……」 「寝る…」 なぜか睨まれた。だよな、と背中を押してベッドへ向かう 軽装になり、少し狭いけど寝られなくはなさそうなのでベッドへ横になった。 ここまで来てまだ何か渋っているリヒトの腕を引き寄せて半ば無理矢理に寝かせた。 落ちないようにぐいっと肩を引き寄せてから布団を被せた。 (明日からはもっとリヒトに負担が掛かる、だからやれる事ならやる) 微々たるものかもしれない、それでも出来る限り楽に過ごせる状況を維持してやりたい 「誰かとこうして寝るのは修学旅行以来かなぁ〜 よし、おやすみ!」 彼の頷きを確認してから目をつむった。俺はすんなりと眠りについた。 光を感じて俺は唸った。しばらくぼんやりとしていたが、視線を感じて見上げるとリヒトがこっちをじっと見ていた。 「……おはよー…」 目を擦って再び唸りながらゆっくり上体を起こした。彼はそんな俺を確認してベッドから出て立ち上がった。
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